踏切に供えられた、色のない花
2018年8月6日夜。取材の締めくくりとして、羽村市に向かった。冒頭に取り上げた、「指輪の女性」の現場である。
この日は夜になるとともに、雨が降り出した。傘を差して、羽村駅東口から線路沿いに歩いていく。雨脚は思ったよりも強く、10分も歩くうちに、荷物はずぶ濡れに。カメラだけでもかばいながら、暗い裏道を歩く。
羽村市によれば、7月末時点で、彼女の身元は明らかになっていない。遺留品も、「轢死であり(中略)損傷が激しかったため」遺体とともに荼毘に付されたという。ティファニーの指輪も一緒だろうか。
駅から数えて、3つ目の踏切が、彼女の亡くなった場所だ。雨のせいもあってか、あたりは真っ暗で、人通りもほとんどない。
「おや」と思ったのは、踏切脇の金網フェンスに、2束の花が挿されていたことである。供えられて相当時間が経つらしい。すっかり枯れ果て、色も抜けきっている。
その場にしゃがみこみ、合掌した。
カン、カン、カン――しばらくそうしていると、警報機の音とともに、ランプが赤く雨の中に灯る。慌てて、傘を差し直して立ち上がる。目の前を青梅方面の電車が、猛スピードで通り過ぎて行った。
(J-CASTニュース編集部 竹内翔)