ティファニーの指輪を左手薬指にはめて、轢死した彼女は「行旅死亡人」になった

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僕らが「行旅」になってもおかしくない

   70代後半で亡くなった、ある人物の遺留品には、2枚の写真付き会員証があった。

   一つは、50年近く前に作ったと思われる。まだ20代だろうか。はにかみ気味の笑顔が印象的だ。もう一つは、死の少し前のものである。硬い表情で写る老人には、確かに先ほどの青年の面影がある。

   出身は地方だ。いつのころか上京し、そのまま東京で亡くなった。遺留品の中には、知人からとみられる年賀状もあった。周囲との付き合いもあったわけだ。

   しかしこの人物も死後、引き取り手がなく「行旅死亡人」となった。

   こうして遺留品を実際に見てみると、ひとつのことがわかる。少なくない人が、死の直前まで、ごく普通の暮らしをしていたことだ。つまり極端な貧困とか、天涯孤独とかでなく、である。

   自分の身に置き換えて考えてみる。筆者もまた、地方出身の上京組だ。しかも独身である。友人はとにかく、近くに親類縁者がいるわけでもない。

   今もし死ねば(死にたくないが)、さすがに実家の両親がなんとかしてくれるだろう。では独身のまま年を取り、両親が亡くなった場合は?

   妹とは今のところ仲がいい。だが万が一何かでもめ、疎遠になったら。あるいは、妹より長生きしたら。こないだ生まれたばかりの甥っ子は、引き取ってくれるだろうか?

   別の行旅死亡人が遺した、黒の小銭入れが目に留まる。人気のカジュアル系ブランドの品だ。同封の書類によれば、持ち主の氏名は不詳、「30~35歳の男性」。自分と同性、同世代だった。

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