段ボール箱に収められた遺留品
2018年7月下旬。あまりの暑さにしまい込んでいたスーツを引っ張り出し、都内のある役所を訪れた。この日は珍しく30度程度だったが、さすがにワイシャツには汗がにじむ。
「行旅死亡人」の遺骨は1~5年程度を目途に保管され(自治体によって異なる)、その後、いわゆる「無縁仏」として合葬される。一方、遺留品は多くの場合、自治体に長く保管され続ける。
久々のスーツを着込んだのは、その遺留品のためだ。自治体の名前を出さないことを条件に、「行旅死亡人」の遺留品の現物を見せてもらえることになったのである。
およそ10年分だという遺留品は、倉庫の段ボール箱4つに収められていた。透明のジッパー袋で人物別に小分けにされ、それが年ごとの大きなビニール袋に詰められている。衣類などかさばるものや些末な品は処分されており、多くは貴重品類のみだ。
キャッシュカードやクレジットカード。PASMO。預金通帳。写真付きの身分証。ちょっと古い型のスマートフォン。キーホルダー付きのカギ。おしゃれな腕時計。革の財布。自筆のメモ類――。
断片にはすぎないが、そこからは「行旅死亡人」たちの生前が、ある程度うかがえる。