トランプ政権への圧力
もちろん、農業を中心に懸念がある。例えばチーズは「EU主要輸出国との激しい競争にさらされることは必至」(北海道農業協同組合)で、輸入が増えれば国産チーズの生産が減り、国内の生乳価格が下がり、酪農家に打撃になる可能性がある。農林水産省の試算では、協定発効で国内の農業生産額が約600億~1100億円減り、特に影響が大きいのが牛乳・乳製品(約134億~203億円)▽豚肉(約118億~236億円)▽住宅用木材など(約186億~371億円)などとしている。一方、農業でも、例えば欧州でも富裕層に人気の高級牛肉などは輸出増が期待される。
それでも、政府は日欧EPAが発効すれば、日本のGDPを5兆円(約1%)押し上げ、29万人の新規雇用を生む効果があると試算しているように、期待の方が高いといえる。
新聞各紙の社説(産経は「主張」)の論調は「歓迎」で足並みがそろう。 今回の意義は、まず、「双方の企業や消費者に幅広く恩恵が及び、お互いの経済を底上げできる」(日経7月18日)、「双方の経済活動は一段と活発になり、成長基盤が強化されよう」(読売19日)という経済活動へのプラス面だ。
ただ、トランプ政権の保護主義の嵐が吹き荒れる中での協定だけに、「保護主義を排除する明確な意思表示」(毎日19日)であり、「(トランプ大統領に)多国間連携の実利を具体的に示し、その輪から外れる不利益を認識させられるか」(産経19日)が問われることになる。
トランプ政権への圧力ということでは、「波及効果」も期待される。朝日(19日)は、「自由貿易網を幾重にも張り巡らせることは、トランプ政権への対抗措置となるだけではない。新たな国際経済の秩序を形作ることにもつながる」と、TPP早期発効や交渉が進む東アジア地域包括的経済連携(RCEP)の交渉促進の必要性を指摘。さらに、日経は「米国は温暖化防止の国際枠組み『パリ協定』や、イランの核開発阻止に向けた包括合意からも離脱した。EPAを礎に日本とEUの関係をより強固にし、国際秩序の安定に貢献する必要がある」と、経済に限らず、全地球規模の課題での協力の重要性を訴えている。