サマータイムについて、安倍晋三総理はその導入を検討するよう自民党に指示したという報道があった。しかし、政府内ではサマータイムについて慎重な見方がある。
安倍総理としては、政府として直ちに検討するのではなく、森会長を門前払いもできないので自民党でと検討すると応じたのだろう。なお、自民党内では、2年間限定で夏の時間を2時間繰り上げるサマータイム導入について議員立法で秋の臨時国会に提出――と、賛成派は目論んでいる。
積極派「省エネと経済効果」
以上の政治プロセスをみていると、サマータイムについては、安倍総理が自ら積極的に発言することなく、自民党へ検討させているので、実現可能性はそれほど高いとは言えないが、一応メリットとデメリットを見ておこう。
サマータイムには、積極派と消極派がある。積極派は産業界である。理由として挙げるのは、省エネと経済効果である。
サマータイムは、活動時間の前倒しであり、省エネ効果や経済効果は、プラス面とマイナス面を考えなければいけないが、推進派はプラス面ばかりを強調する。
例えば、サマータイムで余暇時間が増えて、経済効果が1兆円近いという試算がある。社会経済生産性本部が2002年にまとめた報告書が有名であるが、最近でも民間エコノミストはほぼそれと同様な試算をしている。
そもそも、出勤時間が2時間繰り上がると、退社時間は暑い時になるので、残業してしまう可能性もある。残業にならないとしても余暇時間がそのまま増えたら、睡眠時間が減るだろう。
日本人の睡眠時間は世界でも最低クラスである。2014年に経済協力開発機構(OECD)が世界29か国を対象に15~64歳の国民平均睡眠時間を調べたところ、日本人の睡眠時間は世界29か国の中で韓国に次いで2番目に短い7時間43分だった。7時間以内の睡眠の人は56%にもなっている。
慎重派「睡眠不足がもたらす健康被害」
この睡眠不足は、いろいろな健康被害をもたらすというのは、様々な研究によって知られている。
推進側が経済効果、批判側が健康被害という主張で、経済より健康ではないかとの正論もあるが、議論はすれ違いだ。
しかし、睡眠不足が労働者の生産性を低め、経済的にマイナスという研究もある。2016年の非営利研究機関ランド・ヨーロップの研究によれば、7時間以内の睡眠で日本の経済活動はGDP3%の損失であるという。
サマータイムの推進側の経済効果が、せいぜい1兆円、つまりGDPの0.2%程度であるに対して、その1桁大きい損失だ。サマータイムのメリットとデメリットを比較すると、日本では日本人の睡眠不足もあり、推進側の分が悪い。
省エネではどうだろうか。サマータイムを導入しているのは欧米の高緯度国であり夏の日照時間が長く省エネ効果はあるだろう。しかし、アジアの中低緯度国ではその効果も限定的だ。
日本でも、戦後連合国軍の占領下で1948年から1951年まで4シーズン実施されていた。しかし、寝不足などで社会的に不評であったので、占領政策の終わりとともに廃止され、現在に至っている。
中緯度国の日本の周辺では、韓国、中国、台湾で過去にサマータイムを採用したことがあるが、現在では実施されておらず、サマータイムは定着していない。東南アジアでは、これまでサマータイムは実施されたこともない。
あと2年しかない中で、来2019年の元号改正もあり、システム対応は現実的に至難であることもあり、答えは見えているが、さて自民党はどういう結論をだすのか。
++ 高橋洋一プロフィール
高橋洋一(たかはし よういち) 元内閣参事官、現「政策工房」会長
1955年生まれ。80年に大蔵省に入省、2006年からは内閣参事官も務めた。07年、いわ
ゆる「埋蔵金」を指摘し注目された。08年に退官。10年から嘉悦大学教授。著書に
「さらば財務省!」(講談社)、「『年金問題』は嘘ばかり」(PHP新書)、「大手新聞・テレビが報道できない『官僚』の真実」(SB新書)など。