サマータイムはデメリットだらけ 「ゴリ押し」森喜朗に菅長官も困った

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   2020年の東京五輪・パラリンピック組織委員会の森喜朗会長が、夏の時間を繰り上げるサマータイム(夏時間)を猛プッシュしている。

   これまでも、省エネを目的とするサマータイムの議論はたびたび盛り上がっては立ち消えになってきたが、今回の目的は「猛暑対策」。政府与党が「本格検討に入った」と報じられたのに続いて、安倍晋三首相は森氏らとの会談で、まずは自民党内で議論する意向を示したという。ただ、導入には様々なハードルや、健康被害などデメリットが指摘されており、菅義偉官房長官は現時点では「国民の皆さんの日常生活に影響を生じる」と慎重姿勢だ。

  • 菅義偉官房長官は現時点ではサマータイム導入に慎重姿勢だ(2017年撮影)
    菅義偉官房長官は現時点ではサマータイム導入に慎重姿勢だ(2017年撮影)
  • 菅義偉官房長官は現時点ではサマータイム導入に慎重姿勢だ(2017年撮影)

「日が高くなる前にレースを終えることができる」?

   森氏は2018年7月27日に安倍氏と会談し、サマータイムの法整備を要望。これを受ける形で、産経新聞は8月6日の1面トップ(東京本社最終版)で、政府・与党が夏の時間を2時間繰り上げるサマータイムについて「本格検討に入った」と報じた。記事では、

「導入すれば、午前7時スタート予定のマラソンが、もっとも涼しい午前5時スタートになり、日が高くなる前にレースを終えることができる」

などと説明されている。

   ただ、菅義偉官房長官は8月6日午前の会見で、

「報道は承知しているが、政府としてサマータイム導入を目指すとの方針を決定した事実はない」

とした上で、サマータイム導入には

「暑さ対策の一環としての提案として受け止めているが、国民の皆さんの日常生活に影響を生じるものであり、大会までの期間があと2年と限られていることもある」

と消極的。さらに、

「いずれにしても暑さ対策については、競技の開始時間の前倒しをし、さらには沿道の緑化や路面の温度を抑制する舗装などの取り組みを進めており、ハード・ソフトの面から総合的な対策を徹底的に取り組んでいきたい」

と述べ、暑さ対策としてのサマータイム導入は優先順位が低いことをにじませた。

改修に「4年」はかかり...IT後進国転落も!?

   確かに菅氏が指摘しているように、「日常生活」への影響は大きい。やはり導入の機運が高まった08年、日本睡眠学会は反対する声明を発表している。サマータイム導入で早起きになる一方で「早寝」にはなりにくく、睡眠時間が短くなって健康被害につながる、というのがその理由だ。声明では、04~06年に札幌商工会議所が主導して行った模擬サマータイム(フレックスタイム)に参加した人へのアンケート調査では、従業員の20%~40%が睡眠不足、体調の悪化を訴えたことから、サマータイム導入による健康被害で、年に1350億円の経済損失が発生すると試算した。

   健康被害以外に、「あと2年」という時間的制約も大きなハードルだ。コンピューターシステムの対応が間に合わない可能性があるからだ。国産OS「TRON」を開発したことで知られる坂村健・東洋大教授は、08年6月の毎日新聞への寄稿で、00年になるとコンピューターシステムに不具合が起きるとされた「2000年(Y2K)問題」を引き合いに、サマータイムを「意図的Y2K問題」だと指摘。

「Y2Kの時の経験からして、制度の導入決定から4年程度はシステム改修にかけるべき」

だと主張し、

「さらに、貴重な技術者をはりつける4年はIT分野において日本に決定的な後れを取らせるかもしれない」

とも訴えた。

韓国もソウル五輪で導入したが

   そんな中でも、森氏は8月7日午前、再び首相官邸を訪れて安倍氏にサマータイム導入を要請。森氏らが記者団に明らかにしたところによると、安倍氏は「まずは(自民)党で先行してやってほしい」などと話したという。

   ただ、菅官房長官は直後の会見で、前日と同様の導入に否定的な答弁を繰り返し、安倍氏から検討に向けた指示があったかどうかについては

「個別の会談に言及することは差し控えたい」

とするにとどめた。

   実は韓国でも五輪を理由にサマータイムが導入されたことがあったが、ほどなく廃止されている。導入されたのはソウル五輪を翌年に控えた1987年で、その理由は

「放送主幹社である米国NBCから一銭でも中継権料を取るため、人気種目の試合時間を米国の夜の時間帯に合わせなければならず、そのためには1時間でも多く時差を調整する必要があった」(韓国・中央日報)

というもの。1989年に廃止された理由も

「経済的な結びつきが強い日本が導入していなかったため、商取引に支障が生じる事例が多発した」(読売新聞)

というもので、いずれも今回の東京五輪とは異なっている。

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