アマチュアボクシング界を統括する「日本ボクシング連盟」が国からの助成金を不正流用している疑惑などがあるとして告発状が提出された問題で、告発の中では連盟の山根明会長による「不正審判の強要」疑惑も指摘されている。
ワイドショーではスポーツライターの小林信也氏が、試合結果を左右する判定への介入を「かなり悪質」と指摘。一方で、山根会長の「独裁的」ともいえる権力構造が解消されない背景についても言及した。
会場からは「どうして?!」
告発状は2018年7月27日付で「日本ボクシングを再興する会」が日本オリンピック委員会(JOC)などに提出。リオ五輪代表の成松大介選手に日本スポーツ振興センター(JSC)が交付した助成金240万円を、山根会長の指示で他2選手と3等分させた「不正流用」など複数の疑惑が指摘されている。
そのうちの一つが「不正審判の強要」だ。15年、全日本選手権の審判員ミーティングの際、山根会長が特定選手を名指しして、「今まで連盟のお金で世界での活躍の場を与えてやったが、結果に出ていない。世代交代だ」などと発言。相手選手を勝たせるよう審判に強要する、パワーハラスメントのような形となった。
実際の試合は、名指しされた選手が2回ダウンを奪ったにもかかわらず、相手選手の判定勝ちだった。会場からは「どうして?!」と驚きの声があがった。
元プロボクシングレフェリーの森田健氏は、31日放送の「羽鳥慎一モーニングショー」(テレビ朝日系)で、「どちらとでも取れるような内容の試合。どちらか(勝敗)つけろとなると、後半に頑張った方の(審判どおりの)判定勝ちで問題はないと思う」と理解を示しつつも、指摘されている山根氏の発言については、「採点はその時の試合で決める。前もってこの選手はこうだからああだとは決められない。あり得ない」と批判した。
告発内容では、山根氏と同じ奈良県出身選手が勝つ判定をくだすよう審判に暗に求める「奈良判定」という不正にも触れている。奈良の選手の試合では、山根会長が審判を入れ替えることが多く、審判は「奈良の選手を勝たせる」役割を課せられたと認識する。負けた場合、その審判は公然と厳しく叱られ、資格停止に近い措置を受けることさえある。
「こんなことだと安心して競技ができない」
上記番組で、スポーツライターの小林信也氏は「奈良判定」について、「本当にあってはいけない。残念ながら日本のスポーツ界では、判定に何らかの力が働くようなことに取材の中でもしばしば出会うが、その中でもかなり悪質というか際立った形だと思う」と糾弾した。一方で、「連盟の会長選挙投票者の半数以上は、山根会長側で固められてしまっている。改善を提言した人も何人かいたようだが、そうすると連盟の役割から外されていく。そんなことが長年行われている」と、改善が進まない状況にあることも指摘した。
全国大会では、審判長がつくった「審判割当表」に山根会長が決裁をくだすことで、各試合の審判員が決まるという。小林氏は「他の競技団体にはないのではないか」とし、
「審判の独立性・公平性を阻害している。今回の告発に至った一番の理由は、競技が競技でなくなっていることにあると思う。(ノックアウトがほとんどない)アマチュアボクシングでは、判定が根幹にある。それがこんなことだと安心して競技ができない」
と競技そのものの存立を危ぶんでいた。
00年シドニー五輪では日本代表監督だった山根会長。10年に副会長、11年に会長に就任すると、12年ロンドン五輪で、現WBA世界ミドル級王者の村田諒太選手が金メダル、清水聡選手が銅メダルと、日本44年ぶりのメダルを獲得。山根会長は「終身会長」という立場になり、以降連盟トップに君臨している。「『山根会長のおかげで勝った』と言わないと選手があとで責められるとか、監督や組織の長が選手を支配するようなところがあって、これが選手にとって一番辛いこと」と小林氏は指摘していた。