貿易戦争で中国政府が秋波を送る相手 始まっている「宣伝工作」

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   中米貿易戦争をめぐる動きが盛んに報じられる中、アメリカのフェイスブック社が、浙江省杭州市で設立できたという噂が、2018年7月に出ては消えた。一方、7月11日には、同じ米電気自動車のテスラの上海における100%資本の工場設立が正式に許可された。

   いま中国では、米中貿易戦争とからんで米国企業を含む外国企業に対する中国政府の態度が非常に注目されている。

  • 中国政府が外資企業に送る「秋波」とは(写真は2014年撮影の天安門)
    中国政府が外資企業に送る「秋波」とは(写真は2014年撮影の天安門)
  • 中国政府が外資企業に送る「秋波」とは(写真は2014年撮影の天安門)

優遇されるドイツ企業

   とくにドイツ企業に関するニュースには、目をみはるものがある。

   最も世間の注目を集めたのは、自動車大手のBMWだ。中国の李克強総理は7月9日、ドイツ訪問中に、BMWが中国の合弁自動車企業の中で過半数の株式を有する初の外国企業になる可能性を示した。中国における現行の政策では、外国の自動車メーカーは中国において、中国企業と合弁企業を設立する必要があり、かつ外国企業側の株式のシェアは50%を超えてはならない。中国政府は4月に、これらの制限を2022年までに完全に撤廃すると約束したが、BMWは中国側が約束した優遇や特権をいち早く獲得できることになる。

   もう一つは、ドイツの総合化学メーカー、BASF(BASFn.DE)が、中国広東省で100億ドルの石化プロジェクトに投資したことだ。世間の注目を集めたのは、同社が合弁企業ではなく、この類の企業の中で初の外資系単独出資企業である点だ。これも、優遇や特権によるものと見るのが自然だろう。

   7月9日、中独両国は共同声明を発表し、金融及び経済分野での協力を深化させることへの意欲を示すと同時に、保護貿易主義への反対を表明した。ドイツメディアは「米国との貿易戦争による圧力に直面した中国は、欧州との協力強化を目指している」とみているが、それを中国の慣用表現で表せば、「欧州との連携による米国への対抗」である。

   李克強総理がドイツを訪問している期間中、両国は235億ドルに相当する契約を交わし、その契約にはダイムラーベンツやフォルクスワーゲン、ボッシュなど著名なドイツ企業が含まれている。『ウォールストリート・ジャーナル』はこの状況を踏まえて、「欧州企業は米中貿易戦争から利益を受けようとしている」と報道。

人民日報が報じる米国の「恐怖の罠」

   実のところ、中国政府が力を入れて好意を示しているのは、正確に言えば「国」ではなく、外資企業であり、それには米国企業も含まれている。

   BMW、BASFが享受しようとしている中国の優遇政策に関するロイター通信社の分析記事の表題は、「貿易戦争の太鼓を叩くトランプ、外資企業に『秋波』を送ることにした中国」だ。その内容は次のようになっている。

「長きにわたって、国際社会は、中国が取っている保護主義政策で、中国における外資企業の運営の難易度が上がる一方であることを責め立ててきた。中国と米国の貿易戦争の規模が拡大しようとしているこの折に、中国はこの観点を是正するために努力しており、大型の外国投資プロジェクトに対してゴーサインを出すことによって、開放を支持しているというイメージを作ろうとしている」

   ロイター通信の記事では、上述したテスラのほかに、韓国のLGディスプレイが23億ドル投資し、設立した合資企業も承認されたことを報じている。

   中国の政府系メディアは、外資企業に直接『宣伝工作』も行っている。

   例えば、7月15日に『人民日報』に掲載された『「恐怖の罠」世界の産業チェーンとバリューチェーンへの衝撃』と題する記事のコメンテーターは、「今回、米国政府は『売国奴』という表現をためらいなく濫用し、『課税による脅し』などの手段で繰り返し圧力を加えて、グローバル企業に米国への回帰を求めた。このようなグローバル企業に対する脅しと恫喝は、企業の正常なビジネス決定に荒々しく干渉するものであり、グローバル市場経済をねじ曲げて破壊するものだ」と記した。この記事は「恐怖の罠」という表現を用いて、グローバル企業の利益を著しく損なうものだと報じている。

   この記事で言わんとしているのは、「トランプと付き合ってはならない、彼はあなた方を殺そうとしている!」ということだ。

日本企業にも追い風か

   こうした7月の外資企業についての一連の報道の中で、日本企業の社名は登場しなかった。外資企業に送る「秋波」は、日本企業は対象外だったのか?

   実は、『日本との連携による米国への対抗』という姿勢は、5月に李克強総理が日本を訪問した際にすでに示されていた。「日本企業に優遇を提供する」というシグナルは、2018年に入って「野村ホールディングスが中国初の外資の持ち株証券会社として承認された」ことで発信されている。日本に対するシグナルを、今さら改めて重ねて発信する必要などないのだ。

   この秋に向けて、安倍晋三首相の訪中が準備されている。訪中では、北京のほかに地方都市も訪問するだろう。11月なら上海で開かれる第一回中国輸入品エキスポと重なり、日本との契約額は、李克強首相がドイツ訪問時に結んだ235億ドルを下らないだろうとされる。上海ではなく深センなどのイノベーション都市を訪問する可能性もあり、どちらにしても中国と日本の経済関係が促進される、と北京の中日関係筋は見ている。

   トランプ大統領の仕掛けた対中国貿易戦争は、意外にも中欧関係、中日関係を好転させる要因となっている。

(在北京ジャーナリスト 陳言)

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