「難民だからといって誰でも受け入れるわけにはいかない」
一方、米連邦最高裁は6月26日、トランプ大統領が昨年9月に出したイスラム圏5カ国からの入国制限措置を支持する判断を下した。入国禁止令は2度の改正を経て、イラン、リビア、ソマリア、シリア、イエメンの5カ国からの米国入国の大半を、禁止している。
保守派キリスト教徒の多くが、今もトランプ大統領を支持している事実を受け、「聖書に『隣人を愛せよ』と書かれているのに、トランプ支持者は難民に背を向けているではないか」などと反トランプ派は批判している。
シリア難民の置かれた状況をその目で見てきたディーンは今、こうした声をどう受け止めているのだろうか。
ディーンは、自分でも考えがまとまらないというように、何度も言葉に詰まりながら答えた。
「確かに僕も大きなジレンマに陥っている。トランプ氏がすることに戸惑いも覚える。でも、国や国民を守るためには、難民だからといって誰でも受け入れるわけにはいかない。難民を寛容に受け入れてきた欧州は、大きな代償を払っている。でも、僕が話した難民の多くは、今もシリアに残された家族や親戚を思い、心はシリアにある。アメリカに移住したいわけではなく、いつか故郷に帰りたいと望んでいるようだった」
2018年7月の米ロ首脳会談では、ロシアのプーチン大統領とトランプ大統領が、安全な状態で難民をシリアに帰国させることを協議したとされている。また、トランプ大統領は、「米軍はシリアから撤退すべきだ」と主張し続けてきた。
こうしたなか、2018年7月25日、シリアの南部スワイダ県で「イスラム国」による自爆テロや襲撃、政権側との戦闘が起き、市民ら260人が死亡した。
「レバノンのキャンプで暮らす彼らに最大の支援ができるように、時間とお金と祈りで、支援し続けようと思っている。僕に今できることは、それしかないんだ」
(随時掲載)
++ 岡田光世プロフィール
おかだ・みつよ 作家・エッセイスト
東京都出身。青山学院大卒、ニューヨーク大学大学院修士号取得。日本の大手新聞社のアメリカ現地紙記者を経て、日本と米国を行き来しながら、米国市民の日常と哀歓を描いている。米中西部で暮らした経験もある。文春文庫のエッセイ「ニューヨークの魔法」シリーズは2007年の第1弾から累計37万部を超え、2017年12月5日にシリーズ第8弾となる「ニューヨークの魔法のかかり方」が刊行された。著書はほかに「アメリカの家族」「ニューヨーク日本人教育事情」(ともに岩波新書)などがある。