脚本家は「忍耐だけが頼りの仕事」
「張込み」「砂の器」など、松本清張の原作と特に縁が深かった。61年の「ゼロの焦点」では山田洋次さんが脚本助手として加わっている。山田さんは2014年、朝日新聞の取材に当時のことを振り返り、こう語っている。
「日本一のシナリオライターの橋本さんは楽々と脚本を書くのだろうと想像していたけど、実はのたうち回るように苦しみながら作り上げるのだということを教えられました。脚本が完成した日、僕が『脚本家は油まみれで働く労働者のようですね』と言ったら、橋本さんは『いや、お百姓に近いんじゃないか』と答えました。『種をまいて芽が出て、天気を気づかったり水の心配をしたりしながら作物の実りを待つ。そういう忍耐のいる、いや、忍耐だけが頼りの仕事だよ』と」。
「羅生門」「真昼の暗黒」でブルーリボン脚本賞、「生きる」「真昼の暗黒」「張込み」「鰯雲」「夜の鼓」「黒い画集」「いろはにほへと」「白い巨塔」で毎日映画コンクール脚本賞など多数の受賞歴がある。2013年には全米脚本家組合「ジャン・ルノワール」賞を受賞した。
テレビドラマでは「私は貝になりたい」のほか、刑事ドラマ「非情のライセンス」シリーズの一部にも関わった。
2000年には故郷の兵庫県市川町に「橋本忍記念館」ができた。晩年は闘病と療養が続いたが、08年には映画版「私は貝になりたい」で脚本のリメイク。著書に黒沢監督との関係を語った『複眼の映像 私と黒澤明』などがある。