「なんだこれは、話が違うじゃないか・・・」
肝心の退陣日、浅利さんは別の仕事で徳島にいた。「Xデー」を知らされていなかったからだ。当日の様子をこう推測する。
佐藤首相が「今日はまずテレビと話す。それから記者諸君だ」と突然言い出す。竹下官房長官らがあわててお膳立てする。ところが首相が会見場に行くと、いつもと同じように新聞社の番記者が前方に陣取り、テレビカメラが後方にいる。なんだこれは、話が違うじゃないか・・・。
佐藤首相は、テレビカメラが後方にいても望遠レンズでアップに撮れるということを知らなかった。政見放送の録画取りの時のように、自分とテレビカメラが至近距離で向かい合うと思って会見場に入ったら、いつもと同じように新聞記者が前にいた。当時の新聞記事によれば、「テレビはなんでそんなスミにいるんだ。もっと真中に出なさい、真中へ」「私はテレビと話したい。国民と直接話したいんだ」。
いったん仕切り直しとなり、首相は退座して約10分後にまた会場へ。今度は内閣記者会の幹事社が抗議する。「総理は先ほどテレビと新聞を差別するような発言をされたがわれわれは許すことができない」。首相はきっと身構え、「新聞の人はみんな外に出て下さい」。
その様子を報じるテレビ映像を浅利さんは徳島で、血の凍る思いで見つめていたと回想している。打ち合わせが不十分なままに始まってしまった異例の会見。本来なら事前に浅利氏がキメ細かく段取りを決め、チェックをする立場にあった。そうした思いが、「責めを負うべきは私と官房長官」という言葉になった。