岡田光世「トランプのアメリカ」で暮らす人たち
 貿易戦争と「忘れ去られた人たち」

建築予定地やご希望の地域の工務店へ一括無料資料請求

ハーレーダビッドソンを批判する大統領

   トランプ大統領は衰退した米国の製造業を復活させるために、工場を海外から国内に戻し、海外からの輸入品に対して関税を大幅に引き上げようと、貿易相手国などに強硬な姿勢を取り続けている。メディアでは「貿易戦争」と呼ばれる。一方、国内では大型減税をさらに推し進めている。

   トランプ大統領はアメリカの製鉄業を復活させようとしているが、「その時代はもう終わった」というアメリカ人も多い。コストや利益を考えたら、米企業は中国製品がほしい。

   機内で隣にすわっていたディーンに、その声をぶつけてみた。

「そうかもしれない。でも、中国のやり方はフェアじゃない。好き勝手にやってきたのは、中国もわかってるんだ。製鉄はアメリカ経済に不可欠だ。軍事業にも欠かせない。船やミサイルを作るためにもね。
もちろん、僕がボーイングやフォードの経営者だったら、中国製品を選ぶだろう。でも、『忘れ去られた人々』にとって、大企業の儲けなんかどうでもいいんだ。目の前にいる家族を養いたい。それだけだ」
「でも、今のままでは、米国内で製造業を復活させることは難しいのではないか。労働者側にも、かなりの努力が必要となってくる。高度な機械を使いこなせる技術者も不足している。熟練工の高齢化の問題もある。国内に工場が戻れば、人件費などのコストも膨らむ。トランプ氏の政策が逆に、米企業の経営を圧迫することになるのではないのか」

そんな私の問いかけに、ディーンは答えた。

「確かに現状では、難しいのかもしれない。ただ、人件費は海外でも高騰している。しかも、製造業ではオートメーション化が進んでいるから、今後、人件費がそれほど大きな影響を与えることはなくなるのではないかと思う」

   トランプ氏の強硬な措置に対し、中国などの相手国やEU(欧州連合)からも厳しい対抗措置が返ってくる。そんななか、米オートバイメーカーのハーレーダビッドソンが、EUの報復関税の影響で生産の一部を米国外に移すと発表。アメリカの電気自動車メーカーのテスラも、中国の上海に工場を建設すると表明したばかりだ。

   トランプ氏は、ハーレーダビッドソンを厳しく批判。「国内で辛抱しろ」と訴えている。

   ダンヴィルの「忘れ去られた人たち」に、トランプ氏は救いの手を差し伸べることができるのだろうか。

   「投げつけられたアメリカ国旗」が、再び彼らの前にひるがえる日が訪れるのだろうか。

++ 岡田光世プロフィール
おかだ・みつよ 作家・エッセイスト
東京都出身。青山学院大卒、ニューヨーク大学大学院修士号取得。日本の大手新聞社のアメリカ現地紙記者を経て、日本と米国を行き来しながら、米国市民の日常と哀歓を描いている。米中西部で暮らした経験もある。文春文庫のエッセイ「ニューヨークの魔法」シリーズは2007年の第1弾から累計37万部を超え、2017年12月5日にシリーズ第8弾となる「ニューヨークの魔法のかかり方」が刊行された。著書はほかに「アメリカの家族」「ニューヨーク日本人教育事情」(ともに岩波新書)などがある。


1 2 3
姉妹サイト