北太平洋のサンマの乱獲防止の協議が、今2018年もまとまらなかった。日本など8か国・地域で組織する北太平洋漁業委員会(NPFC)の年次会合は7月5日夜、日本が提案していた公海でのサンマの漁獲制限で合意できずに閉幕した。サンマは漁獲量が減り続けているが、規制の枠組みづくりの協議は来年以降に持ち越された。
NPFCは、北太平洋の漁業資源を管理すべく、日本が中心的役割を果たして2015年に設立された国際機関で、事務局は東京に置く。日本とカナダ、ロシア、中国、韓国、米国、台湾、バヌアツの8か国・地域が参加している。サンマについては15年の第1回会合で、サンマ漁船の許可隻数の急激な増加抑制や、公海で操業する漁船に漁船衛星監視システムの設置を義務づけた。17年には日本がサンマ漁の各国・地域別の漁獲枠設定を提案したが、中国や韓国などの反対で実現しなかった。
前回難色示した韓国とロシアが賛成に転じたが...
今回、日本は前年のリベンジとばかり、公海域での規制に絞る形で、漁獲量に国・地域別の上限を設けることを提案した。水産庁によると、ロシアや台湾など5か国・地域は「資源の減少傾向は明らかだ」として日本案を支持した。しかし、「資源減少の科学的根拠が不明」とする中国とバヌアツが反対し、合意できなかった。
2017年の年次会合では「時期尚早」と規制に難色を示した韓国とロシアが今回は賛成に回ったのは1歩前進だったが、中国の強硬姿勢に変化はなかった。
この問題を考えるには、北太平洋のサンマ漁がどういうことになっているのか、みておく必要がある。サンマは夏から秋にかけて、北太平洋の公海から日本やロシア近海の排他的経済水域(EEZ)に回遊してくる。大型漁船により公海で操業する中台が日本近海に来る前に大量に漁獲するため、東北沖から北海道沖にかけてのEEZ内を中心に操業する日本漁船は深刻な不漁に陥っている。
NPFCへの各国の報告によると、北太平洋の2017年の全体のサンマ漁獲量は前年から26%減って26万6000トン。国・地域別では、台湾が10万7000トン(前年15万トン)、中国が4万9000トン(同6万トン)と減らしている。日本は長年、年20万~30万トン程度で推移していたが、近年は激減し、17年は8万5000トン(同11万トン)まで落ち込んでいる。
供給が減れば価格は上がる道理。東京都中央卸売市場のサンマの取扱数量は10年で6割ほど減り、2017年の平均取引価格は1キロ=676円と、10年前の2倍以上になっているという。18年の漁期は夏からになるが、今年も高値は必至とみられ、庶民の食卓から、秋の味覚の代表選手が、一段と遠のく懸念がある。
一筋縄ではいかない、「科学的根拠」を巡る議論
漁港にある市場の2017年の全国平均価格は1キロ当たり277円と前年より3割上昇した。サンマは春に公海で成長し、夏から秋に産卵のため日本近海に回遊する性質がある。日本の漁業関係者の間では「中国や台湾の漁船が公海で捕獲する影響で、日本沿岸に来なくなった」との不満が広がる。
NPFC での規制論議は1年後に向け、仕切り直しになる。NPFCの科学委員会がサンマの資源量評価を2019年3月に実施することになっており、日本はこれを踏まえ、同年7月の年次会合で改めて漁獲枠の導入を目指すことになる。科学的な根拠を踏まえて他国を巻き込み、中国を説得しようという作戦だ。
ただ、日本の漁獲量減の背景には、近海の一部で海水温が上昇し、低い水温を好むサンマが東方の公海上に移ったためとの指摘もある。日本のサンマ漁船はせいぜい100トン程度と、遠くまでなかなか行けない中小型船が多く、行けても、以前なら半日かそこらで帰港できたのが、漁場に着くまでに1日以上かかるようになって操業回数が減り、水揚げ量を押し下げた可能性があるということだ。
こうした点も含め、「科学的根拠」を巡る議論は一筋縄ではいかないだけに、日本のシナリオ通りに事が運ぶかは予断を許さない。