プラスチックごみ(プラごみ)による海洋汚染が新たな地球環境問題として注目されている。一般的に「海が汚れる」という問題はもちろんだが、微細なごみの生態系への悪影響も懸念されるとあって、2018年6月の主要7か国首脳会議(G7サミット)で大きな議題になり、欧州連合(EU)は30年までに使い捨てプラスチック製品の使用を禁じる方針を打ち出している。日本もここに来て、あわてて対応に乗り出している。
いうまでもなく、合成樹脂であるプラスチックは自然界で分解されにくい。1990年代後半、太平洋に大量のプラごみが漂う「太平洋ごみベルト」が見つかり、大きな関心を集めた。海流で集まったとみられ、面積が日本の国土の約4倍にも達し、衝撃を与えた。水深1万メートルの深海からもポリ袋の破片が見つかっている。
このままでは2050年までに「海の魚の総重量」超える、と警告
最近、特に問題になっているのは、5ミリ以下の微小な粒「マイクロプラスチック(MP)」の海洋汚染だ。もとはペットボトルやレジ袋などのプラごみで、紫外線で劣化して細かく砕ける。歯みがき粉や洗顔料に入っているスクラブ剤は、とりわけ微細な「マイクロビーズ」と呼ばれ、これもMPに含まれる。
プラごみは魚や海鳥の体内から大量に見つかることもあるが、問題なのは生態系への影響。海を漂うMPはダイオキシン類やポリ塩化ビフェニール(PCB)などの有害な化学物質を吸着するので、魚の体内に蓄積・濃縮され、食物連鎖でそれらを食べる鳥や人間にも悪影響を及ぼすと懸念されている。
2016年の世界経済フォーラム年次総会(ダボス会議)で出された報告書によると、毎年少なくとも800万トンのプラスチックが海に流出し、海を漂うプラごみは1億5000万トンを超し、このままでは50年までに、海の魚の総重量を超えると警告している。
国連環境計画(UNEP)は6月発表した報告書で、プラごみの廃棄量が年々増加傾向にあり、2015年には3億トンに及び、うち、ペットボトルやレジ袋などの使い捨てプラスチック製品が47%を占めることを明らかにした。国別では、使い捨てプラスチック製品の廃棄量は中国が約4000万トン(14年)と最多だが、人口1人当たりの廃棄量は米国が約45キロで1位、日本は約32キロで2位。また、これまで世界で製造された累計約90億トンのうち、リサイクルされたのは9%にすぎないと指摘し、使用禁止や課金強化など早急な対策を各国に要請している。
60以上の国や地域が使用削減に動くが...
こうした世界的な関心の高まりを受け、今年のG7サミットでは、環境問題に熱心なカナダが議長国だったこともあり、プラスチック包装のリサイクルについて、2040年までに100%回収を目指すなどの数値目標や具体的な行動を促す「海洋プラスチック憲章」が発表された。欧州は規制に積極的で、英仏などが先行し、EU全体では、欧州委員会がこの5月、30年までにストロー、軸がプラスチックの綿棒、ナイフやフォーク、皿、風船につける棒など再利用できないプラスチック製品の流通を禁じるなどの新規制案を提示し、欧州議会などに承認を求めている。米国では西部ワシントン州シアトル市で7月から、飲食店や食料品店などでプラスチック製の使い捨てストローやフォーク、ナイフなどの提供を禁じる条例が施行された。同様の条例はニューヨーク市やサンフランシスコ市でも検討されている。
UNEPのまとめによると60以上の国や地域が使用削減に動いているというが、こうした世界の動きに比べ、日本の対応は鈍い。
G7サミットでの「海洋プラスチック憲章」には、カナダ、欧州諸国とEUが署名したが、日米2国だけは署名を拒否した。「生活や産業への影響を慎重(しんちょう)に検討する必要がある」というのが理由だ。同じ署名を拒否した米国でも、マイクロビーズの製造は禁止している。
政府は、使い捨てプラスチック製品の削減や再利用、リサイクルを徹底する総合的な戦略「プラスチック資源循環戦略」を2019年夏までに策定する方針だ。(1)使い捨て容器包装などの削減、(2)使用済みプラの徹底的な回収とリサイクル、(3)植物を原料にしたバイオプラスチックの開発と化石燃料由来のプラからの転換策――を3本柱としてプラ資源の循環利用を目指すというが、どの程度の具体的な中身が盛り込めるかは未知数だ。
超党派の議員が提出した海岸漂着物処理推進法の改正案が、6月15日、参院本会議で可決、成立し、2018年夏に施行される見通しだ。洗顔料や歯磨き粉などに含まれるマイクロビーズの製造・販売の自粛やプラごみの再利用を産業界に求める条文が新たに盛りこまれたが、規制ではなく努力義務にとどまる。
「温暖化と同じ」指摘も
大手紙はこうした日本の取り組みに、押しなべて冷ややかだ。
G7サミットでの憲章への署名拒否について、「市民生活や産業界への影響調査ができていなかったと、政府は説明する。だが、海のプラごみは新たな地球環境問題としてG7の主要課題となっていた。政府は危機感を持って国内対策を促進しなければならない」(毎日6月18日)、「この問題は3年前の首脳会議からの懸案だ。今さら調整のための時間が必要だなどといっても説得力を欠く。『環境よりも産業』という政権の姿勢が、日本の評判を傷つけている」(朝日20日)と批判。日経(20日)も「米国とともに署名を見送った。環境規制に後ろ向きなトランプ米大統領への配慮もあったようだ。安倍晋三首相はG7で対策の重要性を語ったが、行動を伴わなければ本気度が問われる」と、手厳しい。
「循環戦略」など政府の今後の取り組みについては、「対策の効果を上げるには、使用量削減などの数値目標を戦略に書き込む必要がある」(毎日)、「環境省や経済産業省は製品種類ごとなどの具体的かつ実効性のある削減ルールを早急に詰めてほしい」(日経)と要望、「一部の業界には規制を嫌う声が根強くある。政治のリーダーシップが不可欠だ」(朝日)と釘をさす。
東京(6月8日)は「今のところ、国として使い捨て製品の流通規制にまでは踏み込むつもりがなさそうだ。......人の仕業は必ず人に環るというのも温暖化と同じである。海洋国、そして廃プラ大国日本は、ここでも世界の大きな流れに取り残されていくのだろうか」と、危惧の念を表明している。
G7サミット前に社説で取り上げた読売(5月30日)は、憲章には触れず、「官民を挙げて、プラスチックの再使用やリサイクルをさらに促進したい。監視や啓発を強化し、不法投棄を防止することも大切だ」と書くが、むしろ、排出量の多い中国以下のアジア圏について紙幅を割き、「急速な人口増加と経済発展に、ごみ処理のシステムが追い付かない現状を改善せねばならない。......日本はプラごみの回収やリサイクルなどで高い技術力を有する。途上国の循環産業の成長を支援することは、重要な国際貢献である」と、国際協力に重点を置いた書き方だが、それはそれとして、日本の取り組みの遅れへの切り込みの弱さが目立った。