南アの時もチーム内に一体感
控え組が存在感を増したチームといえば、8年前の南アフリカW杯を思い出す。
メンバーに30歳以上の選手が7人もいることや、W杯の前哨戦で戦績が悪かったことから、「予選敗退は確実」などと揶揄されていたことは、今大会に臨む西野ジャパンと酷似している。
そこで当時の岡田武史監督は決断する。日本チームの司令塔だった中村俊輔を控えに回し、GKの楢崎正剛を川島に代えただけでなく、怪我で半年間もプレーしていなかった同じくGKの川口能活を主将としてメンバー入りさせた。理想を掲げながらも、目の前の敵に勝つための現実を重視した決断だったといわれている。
その結果、カメルーンやオランダから勝ち星をあげて予選を突破。決勝トーナメントでは、初戦のパラグアイ戦で0―0のままPK戦にもつれ込み、惜敗した。
このときも、楢崎は川島にアドバイスを授け、中村も出場選手に相手の癖を伝えるなどチーム内では一体感が生まれていた。そして、今回と同じように、ゴールを果たした選手の多くがベンチに向けて走った。
精神論だけでW杯を勝ち抜けるとは思わないが、個の力ではかなわない相手に対し、ベテランの知識や経験、台頭著しい若手の技、そしてベンチの思いが重なったときに生まれる一体感は、時に実力以上のものを引き出す。
日本チームが帰国した直後の記者会見で、大会後に選手たちに何を語ったかを問われた西野監督は、「倒れ込んで背中に感じた芝生の感触、見上げた空の色や感じ、それは忘れるな」と述べた後、こう付け加えた。
「ベンチに座っていた選手の、あの居心地の悪いお尻の下の感触を忘れるな」
敗れたことだけでなく、ピッチに立てなかった屈辱を忘れずに4年後を目指して体と技術を磨け。
そんなことを伝えたかったのではないだろうか。
(ノンフィクション作家・辰濃哲郎)