本田「人のゴールがこれだけうれしいのはなかった」
そして、記事には本田に触れた部分がある。乾が明かしている。
「前半の最初は(左サイドを)使えていなかった。(中略)それでベンチから(本田)圭佑くんとか槙野くんが"左サイドをもっと使えるぞ"と言ってくれた。それで皆が使ってくれるようになった」
この本田らのアドバイスが生きてくる。0―1でリードされた前半34分、柴崎岳からのロングパスを受けた左サイドの長友佑都からのパスを、乾がワンタッチで振り抜き同点に追いついた。乾が控え陣に走り寄って抱き合ったのには、そういった伏線があったのだ。
その本田、セネガル戦後のインタビューで、こんな台詞を吐いている。
「サッカー人生でこれだけサブ(控え)に対して前向きに考えられたなんていうのはなかった」「人のゴールがサブでもこれだけうれしいのは、これまでなかったというのは間違いないですね」
プライドの高い男が、自身を「サブ」と呼び、その役割を言葉にして語る心境に達するには、紆余曲折があったはずだ。
日本のベンチでは、こうした悔しさを押し殺してチームに尽くしている選手たちが見守っている。ピッチでは気の抜けたプレーはできないし、ブラジルW杯での借りを返しに来た「おっさん」の思いも背負っている。だから、ゴールを挙げたときは喜びを分かち合うことは、日本チームにとって至極当然のことだったのだ。
そういった環境を作り上げる采配を振ったのが、西野監督だった。
ハリルホジッチ前監督の時はトップダウンだった戦術が、西野監督になってからは、監督と選手、そして選手同士のコミュニケーションが増えたと言われている。ハリルホジッチ采配がダメだというより、西野監督が選手の士気を高める人心掌握術を持ち合わせていたということではないだろうか。ミスが続いたゴールキーパー(GK)の川島永嗣を、あえて試合前日の記者会見に同席させたことも、そのひとつだ。