「個人の方々の支援は今は物資より義援金など金銭的な支援が一番良い方法だと思います」。
ツイッターで2018年7月9日朝、そう呼びかけたのは大西一史・熊本市長。西日本の記録的豪雨から間もなく、個人で被災地へ救援物資を提供する試みに注意を促したのだ。16年熊本地震での実体験に基づく市長の「言葉」とは――。
支援物資が「自衛隊の通行の妨げに」
西日本各地を襲った記録的豪雨で、岡山県倉敷市の真備町では、小田川の堤防が決壊し、広範囲が浸水した。岡山県災害対策本部の発表によると、18年7月9日8時までに2400人の町民を救助している。
実はそんな真備町で、あるトラブルが発生していた。倉敷市が8日夕、公式ツイッターで「現在、倉敷市では個人の方からの救援物資を受け付けていません」と投稿。その上で、
「真備町川辺橋前に沢山の支援物資が置かれており、自衛隊の通行の妨げになり困っています。お気持ちは大変ありがたいのですが、支援物資を川辺橋前に置かないようお願いします」
と呼びかけたのだ。
こうした倉敷市の呼びかけは、ツイッターで「被災地がまだ受け入れ体制できていない以上、物資の支援はするべきじゃない」「支援物資は自衛隊が入っている以上個人で勝手に被災地に持ち込むと復旧の邪魔にしかならないのでやめて!」など、「リツイート」6万件の注目を集めた。
9日朝、熊本市の大西市長も自身のツイッターで、「熊本地震の際、全国から物資が大量に届き本当に有難い反面、発災直後のマンパワー不足で物資のハンドリングで大混乱」と当時を振り返る。
「恐らく今現地はそういう状況にあると考えられます。物資の洪水を防ぐためにも言いにくい事ですが個人の方々の支援は今は物資より義援金など金銭的な支援が一番良い方法だと思います」
支援の電話で「職員が動きが取れない」
大西市長は2016年熊本地震の直後、ツイッターの情報発信に全力を注いでいた。避難所に全国からの救援物資を届けるよう手配していると報告する一方、ボランティアの募集を呼びかけ、水道の漏水箇所の情報提供を求めるなど、市民と「対話」し続けた。
ただ一方、避難所への物資手配では相当な苦労を強いられた側面も。地震発生後5日目の4月19日、ツイッターで
「避難所になかなか物資が届かず大変ご迷惑をおかけします。支援物資は徐々に到着しておりますが物資を受け取ったり仕分けしたり配送するマンパワーが不足。渋滞も酷い状況です。今体制を整えて円滑に物資が届くように全力挙げてます」
と投稿。人的体制もままならない状態で、大量に救援物資が到着して、かえって現場は混乱してしまったのだ。
大西市長はさらに「支援に関する問合せのお電話を沢山頂き感謝致します」とした上で、
「しかし物資を被災者に届ける職員が電話対応で全く動きが取れません」
と、「善意」の電話にかえって忙殺されていることを告白。「こういう事を申上げ大変失礼ですが」として、
「電話での問合せを極力ご遠慮頂けると大変助かります。今後熊本市HPにて義援金口座等も記載しますのでそちらを是非参照下さい」
と呼びかけていた。
東日本大震災で学んだこと
こうした救援物資の「洪水」を想定していたのが、高島宗一郎・福岡市長だった。熊本地震発生後わずか51分で自身のフェイスブックに福岡市災害対策本部の設置を報告するなど終始、迅速な対応は称賛の声を集めた。
高島市長は地震発生の翌15日、FBで「支援物資については現在ニーズと現地の受け入れ態勢を調査中」と報告。「現時点で区役所などに直接物資などを持ち込むと逆に混乱しますので、控えてください」と呼びかけた。
16日には「災害対応は一般的には発生から72時間を人命救助優先とし、その後仮設住宅の建設などの生活支援を中心とする対応を経て、本格的な復旧・復興期へと移行していくことになります」と投稿。その上で、
「被災支援については、その段階に合わせた支援を行うことが求められるのです。私自身もこのことは東日本大震災の時に学びました。現時点で市民の皆さんへ協力をお願いできることは義援金です」
そして17日以降、FBで支援物資提供を呼びかけた。17日は「ペットボトルの水」「トイレットペーパー」など6種類のみで、18日夜に「ウェットティッシュ」「栄養補助食品」を追加した。
ただただ、被災地に多くの救援物資を送ればいいわけではない――。幾度も大災害をくぐり抜け、いつしかその考えも広まっていくかもしれない。吉村洋文・大阪市長は今回の記録的豪雨をめぐり、ツイッターで大阪市民にこう呼びかけた。
「救援物質を送りたいので大阪市で窓口取りまとめて欲しいという声がありますが、被災自治体の意向を無視した応援は混乱に繋がりますので、義援金でのご支援をお願いします」(18年7月9日付)