松本智津夫(麻原彰晃)死刑囚(63)らオウム真理教元幹部の死刑執行を命じた上川陽子法相は2018年7月6日に開いた記者会見で、執行命令書にサインした際の心境を「鏡を磨いて、磨いて、磨いて、磨ききるという気持ち」などと繰り返した。
上川氏はこれまでも、死刑制度について問われて「鏡を磨く」という表現を口にしているが、今回は「磨く」を4回も繰り返して使い、「一点の曇りもない判断」を強調したようだ。
「そういう心構えで慎重にも慎重を重ねた上で」
1日に7人に対して死刑が執行されるのは、法務省が1998年11月に死刑執行を発表するようになってから初めて。上川氏は、死刑執行の対象になった事案について
「一連の犯行については、27名にもおよぶ尊い命が奪われたところ。また、一命をとりとめたものの、多くの方が障害を負わされ、中には重篤な障害を負われた方もおられる。その命を奪われた被害者、ご遺族、また、一命をとりとめたものの生涯を負わされた被害者の方々、そしてそのご家族、受けられた恐怖、苦しみ、悲しみは想像を絶するものがある」
などと重大性を強調した上で、「磨く」という言葉を繰り返して命令書に際した際の心境を説明した。
「本日の死刑執行についてもこうしたことを踏まえつつ、私としては、鏡を磨いて、磨いて、磨いて、磨いて...、という、そういう心構えで慎重にも慎重を重ねた上で死刑執行命令を発したものでございます」
オウムが起こした坂本堤弁護士一家殺害事件の発生は1989(平成元)年。平成の終わりを翌2019年に控えた死刑執行に、記者からは
「時代を象徴する、平成を象徴する事件だった」
という指摘もあった。時代背景と死刑執行との関係性を問う質問だが、ここでも上川氏は
「死刑を判断するという上では、様々な時代の中のことも考えながら、そしてこれからのことも考えながら、ひとつずつの事件について慎重な上にも慎重に、先ほど(と同様に)重ねて申し上げるが、鏡を磨いて、磨いて、磨いて、磨ききると、こういう気持ちで判断をさせていだいた」
などと「鏡を磨く」という表現を繰り返した。
別の記者からの
「その鏡に一点の曇りも残っていなかったのか」
という疑問には、上川氏は
「私は磨いて磨いて、そして判断をさせていただいた。それ以上でもそれ以下でもない」
と応じた。
死刑執行対象者の人選や時期については、
「個々の死刑執行の判断にかかわる事項で、お答えは差し控えたい」
と述べるにとどめた。
「澄んだ心で死刑制度に対して厳正に向き合う必要」
これまでも上川氏は「鏡を磨く」という表現を繰り返してきた。上川氏は第2次安倍改造内閣で、公職選挙法違反の疑惑で辞任した松島みどり氏の後任として法相に就任。17年10月の内閣改造で退任したが、17年8月の第3次安倍第3次改造内閣で改めて法相に起用されていた。法務省の会見録で確認できる限りでは、上川氏が初めて「鏡を磨く」という表現を使ったのは15年10月6日だ。名張毒ぶどう酒事件で無実を訴え続けていた奥西勝(おくにし・まさる)死刑囚が病死したことを受け、死刑制度のあり方について問われ、
「一つ一つの事例について、正に鏡を磨いていくと、磨ききって磨ききっていくというような澄んだ心で、この制度に対しても厳正に向き合う必要があると思っている」
などと答弁していた。
上川氏の前回の死刑執行命令は17年12月。犯行当時19歳だった少年死刑囚ら2人の死刑が執行され、その際も
「鏡を磨いて、磨いて、磨いていく、そういう心構えで慎重にも慎重な検討を加えた上で死刑の執行を命令した次第」
と述べた。少年死刑囚の死刑執行は、判決で死刑を選択する「永山基準」で知られる永山則夫元死刑囚(1997年8月執行)以来20年ぶりだったが、この時は「磨く」は3回繰り返しての使用だった。