北朝鮮の金正恩・朝鮮労働党委員長が連日行った中朝国境地帯の現地視察では、「カジュアル路線」が際立った。
特に2018年6月30日に国営メディアが報じた葦(あし)農場の視察では、国境の鴨緑江の河口付近にある島々には小さなボートで上陸し、島内もロシア製の大衆車で移動。シンガポールで行われた米朝首脳会談では中国から借りたボーイング747型機で現地入りし、北朝鮮から持ち込んだベンツで移動したのとは対照的だ。
コンクリートの岸壁をよじ登って上陸
正恩氏が訪れたのは、薪島(シンド)郡葦(あし)総合農場。6月30日に労働新聞が1面トップで報じ、朝鮮中央テレビも8分間にわたって報じた。朝鮮中央テレビでは動画ではなく静止画で現地指導の様子を報じたが、労働新聞や朝鮮中央通信が配信していないカットも多く紹介された。
これらの写真では、桟橋が整備されていない岸で軍人に支えられながら小型のボートに乗り、コンクリートの岸壁をよじ登って上陸する様子が分かる。島内では、汚れた青緑色のセダンで移動。ロシアのニュースサイト「TJ」(Tジャーナル)によると、この車はロシア最大の自動車メーカー「アフトバス」が07年から17年にかけて生産した大衆車「ラーダ・プリオラ」。シンガポールでは北朝鮮の国章が入ったベンツの防弾仕様車「S600プルマン・ガード」を使ったのとは好対照だ。
人民服ではなく白の半袖開襟シャツで談笑
服装もカジュアルだった。普段は黒や紺の長袖の人民服姿だが、この日は白の半袖開襟シャツで談笑。農場を指導する写真の中には、ズボンが泥で汚れているように見えるものもあった。
労働新聞では、正恩氏の服装や移動手段に関する言及はないが、正恩氏は
「郡内の小学校、中学校も立派に築いてやって教育の環境と条件を一新することによって島民が都市をうらやまない文化的な生活を享受できるようにすべき」
「島で生活する郡内の人民に、より便利で文化的な生活条件を与えてやるために重ねて気をつかい、交通条件まで察してバスをはじめ運輸機材も送ってやる」
などとインフラ整備を指示したことを伝えている。
こういった異例の視察スタイルを通じて、国民との距離感の近さをアピールする狙いがあるとみられ、韓国の聯合ニュースは、
「現地視察の過程で苦労をいとわない『気さくな』指導者のイメージを宣伝するため」
だという分析を紹介している。