北朝鮮の国営メディアが3日連続で金正恩・朝鮮労働党委員長による「現地指導」の様子を報じている。現地指導の時期は明らかではないが、共通しているのは訪問先が中朝国境地帯だったということだ。
米朝首脳会談や3回目の中朝首脳会談以降、正恩氏の「現地指導」が報じられるのはこれが初めてで、中朝の経済協力を見越したものではないかとの見方も出ている。
増産を命じたのは「葦」だった
労働新聞は6月30日付けで、正恩氏の朝鮮人民軍第1524軍部隊と、薪島(シンド)郡葦(あし)総合農場の現地指導を報じた。「第1524軍部隊」の所在地は不明だが、薪島郡は、北朝鮮と中国の国境を流れる鴨緑江の河口付近にある島々のことを指す。正恩氏は葦の農場で、
「収量を高め、葦輸送問題を解決して各工場に繊維原料を円滑に供給すべき」
などと指示したという。
薪島群にある黄金坪(ファングムピョン)は、11年に「経済地帯」に指定され、中朝で共同開発する工業団地の着工式まで行われたが、同年末から12年にかけて「投資実績なし」「挫折」などが日韓のメディアで相次いで報じられていた。
翌7月1日には、鴨緑江を挟んで中国の対岸にある新義州(シニジュ)の化粧品工場の指導を報道。この工場は1949年に北朝鮮で初めて建設された化粧品工場で、「春の香り」を意味するブランド「ポムヒャンギ」で知られる。正恩氏は従業員の働きぶりに「満足に大満足」する一方で、
「すでに収めた成果に満足せず、より高い目標を目指して引き続き飛躍すべき」
と指摘。平壌に「ポムヒャンギ」を専門に販売する店舗を開設するように指示した。
紡績工場の計画未達に「とても胸を痛めた」
7月2日には、新義州の化学繊維工場と紡織工場の指導を報じた。「成果」が報じられることが多い北朝鮮の報道の中で、現状の問題点を指摘する珍しい内容だ。朝鮮労働党が力を入れている次代教育事業の「問題の一つが紙の需要を満たせずにいること」で、この化学繊維工場では葦を原料にして紙を試験生産したという。正恩氏は紙を見て、
「この程度なら悪くない、紙の質と生産性を高めるための研究をいっそう深めなければならない」
などと述べた。一方の紡績工場は「人民経済計画未達成状態」だといい、その報告を受けた正恩氏は
「(金日成)主席と(金正日)総書記の指導事績が多く宿っており、過去、国の軽工業の発展に積極的に寄与した歴史のある工場がその誇らしい伝統を生かせずにいることにとても胸を痛めた」
という。その上で、
「工場の党委員会が従業員の労働条件と生活条件の改善に関心を払っていないこと」
について指摘し、従業員寮を建設するなど待遇改善を指示したという。
これらの国営メディアの報道には中国に関する言及はないが、韓国メディアは
「金委員長の相次ぐ視察は中国の経済協力を視野に入れたものとの分析も出ている」(聯合ニュース)
「朝中経済協力を念頭に置いた布石ではないかと見られる」(ハンギョレ)
などと報じている。