産経が政府方針へ示した懸念 外国人労働者の「受入拡大」問題

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   政府が、少子化や人手不足に対応するため外国人労働者の受け入れ拡大を打ち出した。一定の技能水準と日本語能力を身につけた人を対象に、最長で5年間の在留を認める新制度を導入するという内容。早ければ秋の臨時国会に、新制度を盛り込んだ出入国管理及び難民認定法の改正案を提出し、2019年4月の施行をめざす。単純労働者は受け入れないというこれまでの方針を事実上転換し、単純労働者の長期就労に門戸を開くものだが、保守派を中心に慎重論が根強く、議論はなお曲折も予想される。

   18年6月15日閣議決定した経済財政運営の基本方針(骨太の方針)に盛り込んだ。政府はこれまで、外国人労働者は医師や弁護士など高度な専門性のある職種に限って受け入れてきた。とはいえ、単純労働分野の人手不足は年々深刻化する中、最長3年(のち5年)間働きながら技術を習得する「技能実習制度」で対応してきた。同制度は発展途上国への技術移転を目的に1993年に創設された国際貢献の一環という位置づけだが、実際は低賃金労働者の確保策になっている。

  • 今回の新制度は?
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技能実習制度と新制度

   日本の外国人労働者は2016年に初めて100万人を突破し、17年は127.9万人に達し、うち技能実習生が25.7万人と約20%を占めるというように、実質戦力化しているが、賃金不払いや長時間労働などがしばしば問題化していて、厚生労働省の16年の立ち入り調査で、外国人技能実習生が働く事業所の7割に労働基準法などの違反が見つかった。「安上がりな労働力」として使われている実態は否定しようがない。

   今回の新制度は、こうした外国人労働者を巡る建前と本音のギャップを、多少なりとも埋めようというものだ。在留資格を与えるにあたって、試験で一定の知識や技術があるかを確かめ、日本語能力も「ある程度日常会話ができる」を原則とする。ただ、技能実習制度の修了者であれば試験は免除される。

   さらに、安倍晋三政権は「移民政策は取らない」と繰り返しているが、新制度は永住への道を開くとも指摘される。それは、「専門性のある人材」に移行可能という点だ。滞在中に必要な技能習得などを確認できる試験に合格すれば、「専門的・技術的分野」として別の在留資格に移行できるようにして、5年を超える長期滞在や、家族帯同が認められる可能性があるという。そして、外国人が永住権を得る条件である「日本で最低10年暮らす」という永住許可の条件クリアが視野に入ってくる。

経済効果への期待、治安面への不安

   新制度の対象業種として、政府は人手不足に悩む建設、農業、介護、観光(宿泊)、造船の5業種を想定。年間数万人の外国人労働者が新たに確保できると試算しており、2025年ごろまでに50万人超が来日すると見込んでいる。業種はいずれ拡大される可能性もある。

   他方、他の就労目的の在留資格と同様に「日本人と同等以上の報酬の確保」をうたうとともに、外国人労働者の増加でオーバーステイや偽装滞在などの問題が深刻化する可能性もあるとして、在留状況を厳しく管理する方針も併せて打ち出した。

   実は、技能実習の滞在期間を従来の3年から5年に延長したのは、2017年11月から(法改正は前年)で、半年余りで滞在期間を事実上10年に倍増させる方針を打ち出さざるを得なかったことになり、外国人の労働力なしに日本社会が回らないこと示していると言えるだろう。

   この問題には、経済効果のほか異文化交流などプラス面への期待がある一方、外国人を劣悪な条件で働かせることになる懸念、逆に外国人の増加による治安面の不安なども指摘され、大手紙の社説の論調もかなりバラツキがある。

   人手不足に悩む経済界の「本音」を汲んで、日経(6月7日)は、まず「構造的な労働力不足を補い、日本が成長する基盤を維持するための一歩といえる」と高く評価したうえで、日本語力、違法な労働条件などへの懸念があると指摘したうえで、「外国人の受け入れは、安心して働け、生活できる環境の整備が前提となる。外国人を雇用する企業へは監督を強める必要がある。日本語の習得や医療面などの支援にも力を入れなければならない」と釘をさす。この主張の背景には、「生産年齢人口が減る国は日本だけではなく、外国人材の国際的な獲得競争は今後激しくなる。日本を選んでもらうためにも暮らしやすい環境の整備は欠かせない」という、人材獲得を巡る国際競争という視点がある。

外国人労働者の拡大は世界的な動き

   日経に限らず、基本的方向性を「是」とする論調が多い。「原則として認めてこなかった単純労働にも門戸を開くもので、実質的な政策転換につながる。......外国人労働者の拡大は世界的な動きであり、経済成長のためにも欠かせない。人口減少が進む日本で検討していくことは当然だ」(毎日、7日)、「少子高齢化に伴う経済・社会の活力低下を防ぐため、外国人労働者の受け入れ枠を広げる方向性は理解できる」(読売、18日)といった具合だ。

   ただ、安上がりな労働力の確保、あるいはそこまで言わなくても安易な労働力確保策の側面が強くなりかねないとの懸念も強い。現状の技能実習制度の問題を踏まえ「適切な処遇で報いることが欠かせない」(読売)、「賃金などの労働条件はもちろん、社会保障などを含めた環境の整備が求められる」(毎日)などの主張がそれだ。

   この点、朝日(19日)が強く訴えており、「大切なのは、外国人労働者を社会を構成する一員として正面から迎え入れる姿勢だ」として、政府に「日本語学習の機会の保証」を強く求めるとともに、受け入れる企業にも「賃金や休日などの労働条件を順守するのはもちろん、その外国人の文化・習俗を理解し、働きやすい職場をつくる責任を負う」と求める。

   朝日は最後に「現実を見すえ、共生のための仕組みづくりを急がなければならない」と締めている。毎日も「外国人の増加を巡っては、国民の間で治安悪化の懸念など不安が根強いことも否定できない」と指摘したうえで、「目指すべきは、外国人労働者が地域の人々と交流し、共に生活を営む社会であろう。そのためには、官民で就労受け入れを巡る議論を深める必要がある」と書く。社会全体で受け入れようという主張は、そう明示的に書くかどうかは別にして、各紙に通底する視点だろう。

実は移民政策化していく?

   こうした中で、保守派の意向を背景に、外国人労働者の拡大への警戒感という点で際立つのが産経だ。6月27日、「外国人受け入れ 『安価な労働力』は誤りだ」と、最も否定的な見出しを掲げた「主張」(社説に相当)を掲載。「真の狙いは少子高齢化に伴う恒常的な人手不足への対応だろう」との指摘は、他紙と差がないが、産経が訴えるポイントは、安倍首相が「移民政策とは異なる」と言いながら、実は移民政策化していくのではないかという危惧だ。5分野で、2025年頃までに50万人を超える人材の受け入れを目指す方針に対し、「少子化による人手不足はこの5分野だけにとどまらない。日本の勤労世代が1千万人単位で減っていくことを考えれば、すぐにわかることだ。要望のある職種について、すべて受け入れていくことが果たして可能なのだろうか」と、対象業種、人数がなし崩し的に拡大していくことに警鐘を鳴らしている。

   さらに、「互いに生活ルールや習慣の違いを乗り越えなければ、対立や分断が生じる。外国人へのさらなる寛容さを持てるか、も問われる」という締めの書きぶりも、外国人との共生への環境整備を呼びかける他紙とはトーンの違いを見せている。

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