株主総会対策か
メモリー事業は東芝の営業利益の9割を生み出す稼ぎ頭で、これで得た資金をどう使うかが東芝の未来を決することになる。売却完了時、成長分野への投資に振り向ける原資を得たというのが一般的な評価だったが、かといって、直ちに有望な投資先がゴロゴロあるというわけでもなく、巨額な資金を無為に寝かしておくことになる懸念も指摘された。
そこで声をあげたのが、増資に応じた株主など海外ファンドだった。自社株買いを求める声が相次いで東芝に寄せられ、中には「1兆1000億円」といった具体的数字をあげて実施を迫るファンドもあったという。
もちろん、東芝も一定の株主還元策は検討してきたが、7000億円という巨額の自社株買いは、市場でもサプライズと受け止められる規模だった。このタイミングで、この額の自社株買いを表明したのは、6月27日に予定している株主総会対策と見る向きが多い。総会を波風なく乗り切って、経営再建を円滑に進めたいとの思惑があったのは間違いなさそうだ。
東芝は今後の事業の柱として、人工知能(AI)などを活用し、エネルギーやインフラなどの分野で、機器を売るだけでなく、納入後の保守やサービスで継続的に稼ぐ方針を示す。また、半導体でも、メモリーはなくなったが、電気自動車(EV)向けのパワー半導体などは残っており、需要の伸びが期待できるという。ただ、どんな分野であれ競合各社も同様の取り組みを強める中で、継続的な投資が欠かせない。大胆な合併・買収(M&A)が必要な局面も出てくる。ただ、全体として、具体的な戦略はなお明確ではない。
今回の自社株買いは、長期的な成長戦略よりも、影響力を強める「もの言う株主」への配慮を優先した形で、「新たな成長への手詰まり感」(大手紙経済部デスク)を印象付けることになった。