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山里亮太の「働き方改革」で日本ダメにならない?(2) 芸人がビジネスマンという「引き出し」を増やすワケ

   「あなたの職業は何ですか?」と聞かれたら、僕、山里亮太は「お笑い芸人」と答えます(今は編集長もしていますが)。多くの人は、だいたい1つの仕事をしていますよね。

   でも、世の中いくつかの仕事や肩書きを持っている人もいます。僕たち「芸人」の中にもいます。お笑いだけでなく、ビジネス界にも進出したりして......。こういう芸人は、「本当にお笑いをやっているのか」なんて言われることもあります。

   サイボウズの青野慶久社長の考え方は、どうやらちょっと違います。しきりに出る言葉は、多くの「引き出し」を持つということ。それが「21世紀型のキャリア」形成に関わってくるようです。

サイボウズ青野慶久社長(右)、J-CASTニュース名誉編集長・山里亮太(サイボウズ本社にて)
サイボウズ青野慶久社長(右)、J-CASTニュース名誉編集長・山里亮太(サイボウズ本社にて)

同じことだけを長くやってもキャリアは作れない

山里: 「時間をかければ成長する、とは限らない」という話がありました。才能ある人はそうでしょうけど、無骨にコツコツ時間をかけてやるしかないという人も多くないですか。

青野: これは「21世紀型のキャリア」の作り方に関わると思っています。残念ながら、同じことだけを長くやってもキャリアは作れない
どうすればいいかというと、たとえば自分は野球の才能で、イチローさんや大谷翔平さんに比べて半分くらいしかないと思ったら、野球のプレー以外の「引き出し」を作っていくんです。「解説が上手い」でも、「指導が上手い」でもいいでしょう。

山里: 自分が力を発揮できる分野が他にもあるかもしれないから?

青野: そう。芸人さんも、こうやって「ビジネスの話もできる」という引き出しが1個増えた瞬間、万が一、漫才師としてトップ・オブ・トップになれなかったとしても、ユニークな存在になれますよね。引き出しとの掛け算で個性をつくれるんです。それが現代風のやり方だと思います。

山里: なるほど。自己分析して、自分の力量が分かったら、可能性を広げるために違う分野にも挑戦してみるわけですね。それが「引き出し」か。

青野: 去年僕、キングコングの西野亮廣さんと対談させてもらったんですけど、彼とかめちゃくちゃ引き出し持っていますよね。漫才はするし、本も出すし、ビジネスもやるし、ネットサービスもやってらっしゃるでしょ?

山里: (深いため息)。もうね、初回のときもそうなんですけど......。こういうところで必ず、西野の名前があがってくるんです!(再び深いため息)。あの男はそんなにすごいですか? (参考:SNSの天才、キンコン西野に学べ!

サイボウズ 青野慶久社長
サイボウズ 青野慶久社長

青野: すごいと思います、ビジネスマンとして。飛び出す勇気というか。

山里: 昔、みんな「あいつはお笑いから逃げたんだ」って言ってたんですよ。あいつはテレビ、お笑いから逃げて、なんかよくわからないけどいろいろ手を出している、と。お笑いっていうのは、これ(お笑い)だけでやってね、テレビに出てやってくのがお笑いだろう、と思っていて。今から思えば恥ずかしいんですけど......、僕が旧世代の人間ですね(笑)。

青野: いやいや(笑)。でも西野さんがファーストペンギンで、一匹目に飛び込んだ人だとすると、セカンド、サードと続いてくと、だんだん流れができると思いますよ。

山里: 「引き出し」って、どうやって増やしていったらいいんですか? 結局会社では同じ仕事をするわけですよね。

青野: そうです。必要なのは、会社にずっといるのでなく、他のところで人脈をつくったり、スキルを身に着けたりすること。つまり副業をOKにすることです。

山里: ちょっと待ってください。「副業」って許していいんですか?

サイボウズと農業を兼務

青野: 実は、就業規則に「副業禁止」と書かれていたとしても、労働法上は自分の自由時間ですから何やってもいいんですよ。会社側は文句を言うかもしれませんが、裁判すれば勝てます。副業やっているから解雇すると言われたら、不当解雇だと言い返すことはできます。さすがにそこまで心の強い人はあまりいませんが。

山里: へー、知らなかったなぁ。やってもいいんだ。

青野: いまは「モデル就業規則」も変わりつつあるんですよ。2年前に、僕が厚生労働省のプロジェクトで、副業を禁止にする会社はおかしい、副業禁止を禁止しろと言っていた時は、まだ賛否両論あったんですけど、今年(2018年)の1月にガイドラインの「モデル就業規則」から「副業禁止」を外しました
会社を立ち上げる人は、「モデル就業規則」に基づいて自社の就業規則を作るので、多分これからは副業を禁止しない会社の方が増えてくると思います。それを厚生労働省はやってくれたんです。

山里: サイボウズさんは、以前から副業を推奨してるじゃないですか? 会社として、損だと思うことはないんですか?

青野: ないです。むしろいいこと多い! たとえばうちの会社には農業をやっている人がいるんですけど、週4日しかここ(サイボウズ)で働かないんですよ。他の人は5日働くから、ある意味サボっているってことでしょ?
ところが、残りの週3日の農業で、いろんな農業法人とつながりを持つことができて、おかげで僕らのソフトが農業法人に売れるようになったんですよ。週5日ずっとサイボウズで働いている人とは違うバリューを返してくれる。それってすごいこと。農業社員は、むしろ特別なポジションになりますよ。

山里: 副業をOKにすると、農家の方がいいと言って、辞める人とかいないんですか?

青野: ぱらぱらいますよ。でも逆に、もともとサイボウズが副業で週1~2日勤務だった人が、サイボウズを主にしたいと言ってくる場合もあります。

山里: そうか。こちらが副業を許してるってことは、どこかから副業で途中こっちに入ってくることもあるんですね。

青野: そう、これがまた良くて。その人たちは、他のところにいっぱい人脈持っているんですよ。

能力がそこまで高くない「普通の人」は?

山里: でもね、正直、副業って能力が高い人はうまく生かせると思うんですが、そうじゃない「普通の人」にも適用できるのかなーって。

青野: 発想の転換をしないといけません。今までは会社に行って上司の言うことに従っていれば給料をもらえたけど、この会社以外で仕事するなら何をしたいか、定年後に給料が下がったり無くなったりした時にどういう生き方をしていたいか。自分が人生でやりたいことに向き合う必要があると思います。これをやらずに暮らしている人は多いと思います。
人生100年時代でしょ。「1つの会社に長く勤めていました」という人が、70歳とか75歳までどうやって生活できますか。いっぱい引き出しを持ち、食い扶持を持っておかないといけないですよね。

山里: 僕らはどういう行動をとっていけばいいんでしょう。

青野: 残業を制限する動きが出ているなら、それを活かしたらいいと思います。18時に会社を追い出されたら、考えますよね。家に帰るのもいいけど、他にも何かできないかなと。

山里: 今の仕事のために学びに行ったり、ほかでスキルを磨いたりとか?

青野: ええ。それを可能にするには、まさに副業を解禁しないといけないんですよ。

山里: こうやって副業の話をすると、前回のADさんじゃないですけど、「ルール違反じゃん」という人も出てくる気がします。「働き方改革」を武器に。

青野: そうですね。日本人のマインドとしては「同調好き」というか、「みんな一律公平にやらねばならない。だからどこに合わせようか」って考えるんですけど、これからの日本を想像すれば働き方はみんなバラバラになるでしょう
一人一人がどんなキャリアを描いていくか自分に任されているし、人と違うのは当たり前です。介護しながら働く人、育児しながら働く人もいれば、ガツガツ残業する人もいれば、きっちり分ける人もいる。多様な働き方を受け入れ、その中で自分はどう生きたいかを問う。この姿勢が求められますね。「俺に合わせろ」というのはなくなっていきます。

山里: そうか、いよいよみんな自分で考えないといけない時代に来たってことですね。これが本当の働き方改革なんですかね。

青野: でもテレビの世界でもそろそろ危機感出てきたんじゃないですか?

山里: 出ているとは思います。

   次回は、「テレビ業界とビジネス」について語っていただきます。余裕がある日本、改革はできるのか? など、これからのビジネスの在り方に切り込みます。6月27日(水)公開予定です。

(続く)


プロフィール
青野慶久(あおの・よしひさ)

1971年生まれ。愛媛県今治市出身。大阪大学工学部情報システム工学科卒業後、松下電工(現 パナソニック)を経て、1997年8月愛媛県松山市でサイボウズを設立。2005年4月代表取締役社長に就任(現任)。社内のワークスタイル変革を推進し離職率を6分の1に低減するとともに、3児の父として3度の育児休暇を取得。総務省、厚労省、経産省、内閣府、内閣官房の働き方変革プロジェクトの外部アドバイザーも務める。著書に『ちょいデキ!』(文春新書)、『チームのことだけ、考えた。』(ダイヤモンド社)、『会社というモンスターが、僕たちを不幸にしているのかもしれない。』(PHP研究所)がある。