「日本が目指すスタイルはメキシコ」。サッカーのロシア・ワールドカップ(W杯)F組のメキシコが2018年6月18日未明(日本時間)、連覇を狙うドイツを1-0で撃破したことで、この議論が盛り上がった。
メキシコの平均身長は日本と同程度だが、6大会連続でW杯ベスト16に進出している。体格で劣る日本にとって、参考にすべき要素があることはかねてから指摘されてきた。ドイツ戦後もこの点に言及する専門家もいる。一方で「真似できるわけない」という声も少なくない。いったいなぜか。
「日本サッカーへのヒントが随所にあると思う」
メキシコはカウンター一閃で王者を突き刺した。前半35分、自陣深くでボールを奪うと、センターバックのモレノからセンターFWエルナンデスにグラウンダーの高速パス。MFグアルダードを経由し、もう一度受けたエルナンデスが、左サイドを全力疾走していたFWロサノにラストパスを送り、そのまま右足を振りぬいた。メキシコはこの1点を守り抜いた。
一貫してカウンターを狙っていた。守備時、ボールの奪いどころをDFライン~ボランチの低い位置に設定し、前線ではパスコースを限定。ドイツの選手を自陣に招き入れ、ボールを奪ったら一転、前がかりになったドイツ陣内、特にサイドバックに空いたスペースへ最短距離でパスを送り、フィニッシュまでつなげる。
スタメン11人の平均身長を比べると、ドイツ185.3センチに対し、メキシコは179.4センチと約6センチの差がある。攻撃の中心を担ったエルナンデスとロサノは175、トップ下のベラは177、右サイドハーフのラジュンは178センチと、前線は特に小柄だ。上記の得点のように長いパスでもむやみにボールを浮かせず、身長差でどうしても負ける空中戦は避ける傾向にあったようだ。
日本代表も、12日に行った親善試合・パラグアイ戦の先発メンバーの平均身長は177センチと、同様に小柄。体格で劣る日本のサッカーにとって、メキシコをメルクマールにすべきという声は多い。
元日本代表の前園真聖氏は18日未明、ツイッターに
「メキシコのサッカーは体格差を感じさせない。前線からの守備、アプローチの速さ、ボールを奪ってからのカウンターの質、足元の技術の高さ、メキシコのサッカーには日本サッカーへのヒントが随所にあると思う」
と投稿していた。
ネット掲示板でも「何十年も前から言われてるけど、やっぱり日本はメキシコ型を目指すべきだよ」「日本もカウンターをオプションに持てばいいのに」と、メキシコを参考にしようという声がある。
「日本人がメキシコに近いのは、体格ではなく身長だけ」
ただし冷静に日本とメキシコを比較する向きもある。TSUBASA社代表でスポーツジャーナリストの岩本義弘氏は18日、ツイッターへの次の2つの投稿で釘を刺した。まず「体格」について。
「NHKの実況解説で、メキシコの選手たちが日本人と体格がそれほど変わらない、という、よく言われる話をしているけれど、それは大きな間違い。日本とメキシコで試合をすれば、それが如実にわかるはず(例:ロンドン五輪=編注:準決勝で日本は1-3の敗戦)。日本人がメキシコに近いのは、体格ではなく身長だけ」
メキシコのカウンターを支えたのは当然、組織的で堅固な守備だ。そのベースには、巨大なドイツ選手相手に1対1で当たり負けしないフィジカルの強さがある。
目を引くのはボランチ、MFエレーラの厳しい寄せ。試合データ集計サイト「WhoScored.com」で守備時のタックル数を見ると、出場選手中、同率3位でメキシコのMFグアルダードとロサノが3回ずつ、2位のドイツDFボアテングが4回だったのに対し、トップのエレーラは7回にも及んだ。あの決勝点も、彼がドイツMFケディラにタックルを仕掛けて奪ったところからのカウンターだった。
岩本氏はもう1つ、メキシコは終盤にDFの数を増やしたが、
「メキシコ、5バックにして守りきる作戦。これはオチョアという素晴らしいGKがいるからこそ、取れる作戦でもある」
と投稿している。ドイツは90分でシュート26本、うち枠内は10本。メキシコの13本、枠内4本を2倍上回る猛攻を見せたが、GKオチョアがゴールを割らせない。9セーブを記録して立ちはだかった。一方の日本は、直近4試合連続で2失点するなど、守備に課題が多い。
「当たっても潰れない身体が大前提なんだよな」
このような点からも、現時点で日本がメキシコのようなサッカーを構築できるかは不透明かもしれない。ネット掲示板では
「誰だよメキシコのサッカー真似しろって言ってたの あんなの出来るわけねーだろ 個の力が違い過ぎる」
「当たっても潰れない身体が大前提なんだよな」
「空中戦も競り合いにも脆い最終ライン、守備のできないボランチ、寄せるだけで前を向けなくなるトップ下、孤立する左右、上がりたがりで後にスペース作ってくれる両SB、そしてザルGK」
などと厳しい声も多い。
「メキシコを見習うべき」論は以前からある。14年ブラジルW杯後に日本代表に招聘されたハビエル・アギーレ監督は、10年南アフリカW杯でメキシコを16強に導いた指揮官。「自分たちから仕掛ける攻撃もできる。カウンターもできる。引き出しが多い」「日本人の良さを生かせる」(原博実・当時日本サッカー協会専務理事)などの能力を見込まれた。15年3月にバヒド・ハリルホジッチ監督体制に移行した後も、その流れは一定程度引き継がれた。だがW杯2か月前に解任、「しっかり繋ぐ」(田嶋幸三会長)サッカーへ転換された。
なお、メキシコのフアン・カルロス・オソリオ監督はドイツに勝利後、「6か月前からプランを立てていた」と語っている。W杯の組み合わせが決まったのは17年12月。その直後から、緻密に勝利の方程式を組み立てていたことになる。