大人に求められる倫理
編集部 改めて強調しておきたいことを伺えますか。
川島 人間による技術の発展というものは、自分たちが楽で努力しなくてもいいようにする、という方向に発展してきました。今では教育さえもそちらの方向を向いていますね。でも、自分で努力をしない、特に発達期に負荷をかけて自分の器を成長させることをしないということは、器が小さいままの人間を世の中に放出していくということになります。
そうした時代の流れの中で、知らずにスマホを使い込んで沈んでいくというのは悲劇としか言いようがありません。一方で、ちゃんとデメリットを知った上で使って、結果として成績が悪くなるというのであれば因果関係もわかりますし、自己責任だという納得もつきます。
そういう意味では、スマホ使用にリスクがあるという可能性が見えてしまったら、それは使う側に教えておくべきだと思っています。リスクがあると知った上で使ってくれと。私は社会で考えてもらうためのきっかけとして、研究データを世の中に提示したいと思って今回の新書を書きましたし、こうした取材記事を通して出来るだけ多くの方に考えるきっかけをつくってもらえればな、と思っています。
少なくとも、成人に達しない子どもたちが、歯止めが利かない状態でスマートフォン等の電子機器を長時間使う、というようなことは何とか避ける社会をつくる必要がある。そういう意味で、行政も企業も含めて、我々大人が持つべき矜持というのは、子どもで金儲けをしないということではないでしょうか。そこに尽きると思います。最近ではゲームのガチャガチャで課金をさせて、半ば中毒状態の子どもが何十万円もの支払いを発生させた、などという事件も起こっていますが、そうした目先のお金儲けに子どもたちを巻き込んで、彼らの将来をダメにしないでほしい。
そこはまさに社会的な倫理観の問題ですよ。スマホを長時間使うことによって悪いことが起こる、しかし大多数の子どもたちが長時間使いたがってしまう。そういう事実がわかったわけですから、そこは我々社会をつくっていく大人が、判断力が未発達な子どもに代わって積極的にブレーキをかける、ぐらいの倫理観を持って世の中をつくっていってほしいものだと思います。
(聞き手 J-CASTニュース BOOKウォッチ編集部)
川島 隆太(かわしま りゅうた)
1959年千葉県生まれ。1989年医学博士(東北大学)。東北大学加齢医学研究所所長。全世界でシリーズ累計販売数3300万本を突破したニンテンドーDS用ソフト「脳トレ」シリーズの監修者。著書は累計600万部を突破した「脳を鍛える大人のドリル」シリーズをはじめ、『現代人のための脳鍛錬』(文春新書)、『さらば脳ブーム』(新潮新書)など多数。