大人の脳にも影響が出る
編集部 新書の内容で、大人から見てもとても興味深かったのが、パソコンやスマホで言葉を打っていると脳が退化するという話です。
川島 テレビを長時間見る子、ゲームを長時間やる子は、脳発達自体が悪くなっているということは、実は数年前の段階で気付いていた事実です。そのテレビやゲームに相当するものが、今の時代はスマホに置き換わっていると思います。
スマホの使用中に脳血流を測定すると、前頭前野が働いていないことがわかるんですよ。要するに、前頭前野に抑制がかかった状態を長時間作ってしまっていることが見えてきた。身体と同様に、脳を積極的に使うべき場面で使わないと、やはり脳の機能は衰えていくんだろうな、いうのが我々の解釈です。
活字媒体の仕事をされている方は肌で感じておられるかと思いますが、多くの若い人たちが、長い文章が読めなくなっています。活字に集中する、活字を読むというのはある程度の時間の長さで集中している必要がありますけど、それができないんですね。まとまった量の活字を読むという努力ができなくなっています。特にSNSの世界では、もう2語文、3語文のコミュニケーションで済ませることがデフォルトになりつつあります。大学生においても、既にそうなってしまっています。
編集部 スマホが席巻する社会の未来は?
川島 例えば中国や日本で、今の状態、つまり人々がスマホにベッタリになって、8割の人が能力を落としていくっていうのは、実はある意味で良いことなんですよ。何しろ、社会がすごく安定してコントロールしやすく、経済的にも一番お金のかからない状態になるわけですからね。
まさに今、ちょうどほどよく、我が国はそういう状態に向かっているな、という感覚を覚えています。どうでもいい一過性の話題で皆が右に行ったり左に行ったりして、適度に感情が動員されながらガス抜きをされている。それでも突き詰めれば、大多数の人は情報に流されるまま、案外平和で幸せに暮らしてくれているということですから。私のようにその幸せな状態に一石を投じて波紋を起こそうというのは少数派でしょうね。いやな顔をする人間も出てくるかも知れない。
ただ、ここから先はまさに私の夢物語ですが、今の状況がいっそう進んでいくと、下手をしたら8割の人が労働力として成立しなくなってしまうかも知れません。そうなると、もはや社会が成立しなくなりますよね。だから、もしかすると、もう少ししたら揺り戻しが起こる可能性もあります。要は、このままだと最悪の場合、労働する人たちの質が下がり過ぎて、国が維持できなくなる、という状況に直面せざるを得なくなるかも知れない。そう気づいた時には、何らかの意志が働いて、もしかすると「スマホは危ないからもうちょっと規制しよう」なんて話が浮上してくるような気がするんです。私の読みでは、意外とそんな時期が訪れるのは、近いような気がしていますけれどもね(笑)。