「脳トレ」などで有名な川島隆太・東北大学加齢医学研究所所長が、あえて業界に一石を投じる衝撃の書を出した。『スマホが学力を破壊する』(集英社新書、2018年3月刊)。仙台市立の小中学校生約7万人を5年間追跡調査し、スマホ使用と学力の相関関係を調べたものだ。スマホを1時間以上使うと、使った時間の長さに応じて成績が低下していることなど、スマホ漬けの生活が子どもに与えるマイナスの影響について、川島教授は膨大なデータをもとに手厳しく指摘している。著書の反響や、スマホと社会のあるべき姿についてJ-CASTニュースが改めて聞いた。
8割の子どもたちの学力が下がる
編集部 たいへんショッキングな内容の本です。反響はいかがですか。
川島 父兄からの反応は、割と微妙です。親御さんたちは、「スマホ無しでは暮らせない」と思うことが多いみたいです。自分たちが生活の中でかなり使っていますからね。一方で、教育委員会など、子どもの教育に携わっている人たちは肯定的に評価してくださっています。
編集部 子どもたちの反応はどうでしょう?
川島 この本のデータを見てもらいながら、スマホ使うと自分の身に何が起こるか、メリットとデメリットを天秤にかけてどう付き合うか考えてみる。仙台市で中学生を相手に、そういう内容のフォーラムをやりました。子どもたちの結論は、「中学生活にスマホはいらない」。要するに、今までこれだけのデメリットがあるということを知らなかった。一度知ってしまうと、使うメリットよりもデメリットの方がはるかに大きいことに気付いてくれたんです。「それでも、高校生になったら使っちゃうかな」という正直な声も聞こえてきました。
編集部 IT関係の業界からの反応はどうでしょうか。
川島 今のところは沈黙を保っているように見えます。
編集部 マスコミは。
川島 メディアはおおむね協力的ですね。特に活字系のメディアに関しては、ようやく危機感に気付いていただけたような気がしています。それなりに積極的に記事にしていただけている感触がありますね。スマホはまだ、普及してから7年ちょっとしか経ってないので、学者の側の研究が追いついていません。世界的にもまだ、リスクについての論文がほとんど出ていないと言えるでしょう。
編集部 そういう意味では先生の研究は画期的ですね。
川島 スマホを1時間未満で使いこなしている子どもたちは、学力に大きな影響が出ていないのです。むしろ、若干成績が良い傾向がある。でもこの子どもたちの割合は、全体の1割から2割に過ぎません。一方で残りの8割の子どもたちは、長時間使用する傾向がどんどん高まっている。そうなってくると、8割の子どもたちは、結果として学力や様々な能力が下がっていってしまう。
要は、スマホの使用状況に応じて格差社会がもっと広がるだろう、という未来を本当は今回の新書から読み取ってほしいんです。それが、私が一番危惧していることです。スマホという何気ない小さな装置、楽しい装置が身近であることによって、今以上にこの国で、ひいては世界中で格差が広がるのではないかと憂慮しています。