関西人は「かんぴょう巻」を知らない――。こんな情報をインターネット上で目にした記者(神奈川出身)は、驚きのあまり手にしたスマホを落としそうになった。
「ええっ、かんぴょう巻が何か分からない人なんて、本当に存在するの!?」
すぐさま同僚の男性記者(20代、奈良出身)に聞くと、「名前は聞いたことありますけど...、食べた記憶はありません」。実際、ツイッターを調べてみると、そこには「かんぴょう巻って何?」といった書き込みが続々と。
いったい、これはどういうことなのか。J-CASTニュース編集部が、寿司の歴史や文化に詳しい東京すしアカデミー(大阪校)の講師に聞くと...。
「食べたことないかも」
念のため説明しておくと、「かんぴょう巻」は、甘辛く煮たカンピョウを海苔と酢飯で巻いた細巻き寿司。その見た目から「鉄砲巻」とも呼ばれる。様々な具材が入った「太巻き」とは違い、使う具材は煮たカンピョウだけだ。
関東ではメジャーな巻物で、寿司屋でも「締め」として必ず食べるという愛好家もいる程なのだが――、関西では馴染みが薄いらしい。ツイッターやネット掲示板には、
「かんぴょう巻きって、関西は馴染みがないわぁ 食べたことないかも」
「東京に初めて住んだときかんぴょう巻きなるものを初めて見て、なんて哀しい物体なんだ...と衝撃を受けた記憶がある」
「太巻きは知ってるがかんぴょう巻は知らん」
との書き込みが定期的に出ている。
また、上述した奈良出身の同僚記者も、「かんぴょう巻」の魅力を熱弁する神奈川出身の筆者に向けて、
「そもそも、『かんぴょう巻』って何なんですか。食べた記憶がないので味は分からないですし、まずどんな色や形をしているかすら知りませんよ。カンピョウの入った太巻きなら食べたことがありますけど」
と、どこか突き放したような調子で話していた。
かんぴょう巻は「関東の寿司文化」
実際、兵庫県内を中心に展開する回転すしチェーン「力丸(りきまる)」でも、メニューにかんぴょう巻はない。運営会社の関西フーズの担当者に理由を尋ねると、
「関西人はかんぴょう巻を食べないので。メニューに入れていない理由は、それだけですよ。おそらく、うち以外の(兵庫県内の)回転寿司店、スーパーや総菜売り場でも、かんぴょう巻はまず置いていないと思いますよ」
と話していた。
ではなぜ、関西ではかんぴょう巻がマイナーなのか。大阪の寿司店で板場に10年以上立ち、現在は寿司職人の養成学校「東京すしアカデミー」の大阪校で講師を務める瀬戸口純也さん(46、大阪出身)に聞いた。
2018年6月15日のJ-CASTニュースの取材に応じた瀬戸口さんは、「関西人はかんぴょう巻はほとんど食べない人が多いですね。置いている店が全くない訳ではないのですが...」と話す。続けて、自らの職人時代を振り返る形で、
「確かに、かんぴょう巻を頼む関西人はほとんどいなかったですよ。ごくたまに、関東から来た人が頼むことはありましたけど...、むしろ、『注文する人がおるんや』って、こっちが驚いてしまう位でしたよ」
と笑っていた。
かんぴょう巻が関西人に馴染みのない理由について尋ねると、瀬戸口さんは「何ででしょうかね、う~ん...」と唸りつつも、
「やはり関西は太巻きが主流で、カンピョウだけを巻いて食べるという文化がもともと存在しないのだと思います。カンピョウの産地といえば栃木ですが、それはあまり関係がないはず。関西でも、昔から太巻きの具材としてよくカンピョウを使っていましたから。やはり、かんぴょう巻は関東の寿司文化だと考えるのが自然だと思います」
としていた。なお現在では、江戸前寿司ブームが関西にも及んでいることから、大阪などでもかんぴょう巻を出す店が増えてきているという。
九州や四国でも、かんぴょう巻はマイナー?
ちなみに、かんぴょう巻がマイナーなのは関西だけでなく、中国や九州地方でも同じではないか、との意見もある。そこで、長崎出身で現在は東京のIT企業に勤める20代男性会社員に聞いてみると、
「確かに、九州ではほとんど食べないですね。個人的に味がちょっと苦手なので、自分は関東に来てからも食べた覚えがない」
とのことだった。
実際、全国に展開する回転すしチェーン「はま寿司」でも、かんぴょう巻は地域限定メニュー。提供しているのは関東以北だけで、東海・関西・中国・四国・九州の5地方では販売をしていないのだ。
同チェーンを運営するゼンショーホールディングスの広報担当者に、その理由を取材すると、
「東海から西の地域では、一般的にかんぴょう巻を食べる文化がないので。地域ごとの食文化にあわせて、販売商品を分けております」
と説明した。