高橋洋一の霞ヶ関ウォッチ
ガチンコ政治交渉としてはまずまず 米朝会談、「トップ同士が合意」の意義

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   6月12日(2018年)、シンガポールで歴史的な米朝首脳会談が開催された。これを受けて、非核化やミサイル、拉致問題は前進が期待できるだろうか。

   共同声明に、トランプ大統領と金正恩委員長が署名したが、非核化やミサイルでは具体的な内容が乏しいという批判もある。たしかに、内容としてはこれまでの六か国協議と比べると新味に乏しい。「CVID」(完全かつ検証可能で不可逆的な非核化)という言葉もなく、タイムテーブルもなかったのは事実だ。

  • トランプ大統領 (C)FOMOUS
    トランプ大統領 (C)FOMOUS
  • トランプ大統領 (C)FOMOUS

安倍総理の名前を連呼

   しかし、ガチンコの政治交渉としてはまずまずだろう。これまでの六か国協議では実務者だけでの議論で、トップ同士の政治的な枠組みが弱かった。その点、今回ではまず両国のトップが政治的な合意をしているので、これから実務協議が行われていくのだろう。実際、トランプ大統領も、ポンペオ国務長官がすぐに交渉すると記者会見で明かしている。

   それにしても、共同声明署名後にあったトランプ大統領の記者会見では、安倍総理の名前が連呼され、いかに安倍総理が今回の米朝首脳会談に食い込んでいるかが改めてわかったのではないか。

   よく知られた話として、トランプ大統領が、米朝首脳会談を韓国の板門店かシンガポールのどちらで開催すべきかを安倍総理に聞いてきた。そのとき、安倍総理は、板門店では、南北首脳会談の延長線、二番煎じになるとアドバイスしたという(8日産経ネット版記事、12日NHK報道など)。これは、文在寅・韓国大統領の過度な介入を遮り、日本の国益を高める上で、外交上のナイスプレーであった。

   いずれにしても、今後、米朝で実務会合が開かれ、その後は6か国協議のような枠組みで、非核化やミサイルが議論されるのだろう。北朝鮮はこれまで幾度となく騙してきたが、今回もそうならないとの確約はない。これについて、トランプ大統領も、「1年後、間違いだったと言うかも」と言っている。ガチンコの交渉であるので、これは正直なところだろう。

拉致問題をトランプ大統領が提起

と同時に、制裁は当分緩めることはないとも言っているので、北朝鮮の出方をうかがいながら、実務協議が行われるのだろう。

   そして、日本として重要な拉致問題をトランプ大統領が提起した。拉致問題は、人権問題でもあり、アメリカも渡りに船の問題だ。日本も日朝首脳会談や実務協議に関わったりするが、拉致問題は日本としての重要な外交カードになる。かつての6か国協議では、拉致問題はほとんど顧みられることはなかったが、今回は、日本にとって大きな有利点である。

   こうしてみると、日本や安倍総理が「蚊帳の外」であるといってきた人は今頃どう反応しているのだろうか。日本が「蚊帳の外」になって、制裁において日本ははしごを外されているという批判もあり、そう批判する人たちの多くは、ボルトン大統領補佐官は米朝首脳会談から外されると言っていたが、ボルトン大統領補佐官は、拡大会議の米側4人の中にしっかりと入っていた。

   いずれにしても、安倍総理はトランプ大統領にとって欠かせない日本の政治家であることがハッキリわかった。トランプ大統領は、記者会見で安倍総理から正しいことを教えてもらったとまで言い切ったからだ。この時期に、これまでの経験豊富で各国要人とのパイプが強い安倍総理以外に上手く対処できる日本の政治家がいないのも事実だ。これからの実務的な協議は安倍総理が握る。

問題解決に向かう確率は「これまでよりは高まった」

   今回の米朝首脳会談で、非核化やミサイル、拉致問題への取り組みの政治的な枠組みができた。米朝トップの政治的な方向性ができたので、非核化、拉致問題解決に向かう確率は100%ではないが、これまでよりは高まったといえる。

   もっとも、失敗したら、トランプ大統領は再び軍事オプションをちらつかせる、場合によってはその行使という恐怖になる。トップ同士で約束をしたということが効いてくる。

   昨17年は軍事オプションが現実化していたので、金正恩委員長から米朝首脳会談を申し入れてきた。その結果なので、金正恩は何とか応えないとまた元の木阿弥になる。これがまさにガチンコの取引である。


++ 高橋洋一プロフィール
高橋洋一(たかはし よういち) 元内閣参事官、現「政策工房」会長
1955年生まれ。80年に大蔵省に入省、2006年からは内閣参事官も務めた。07年、いわ ゆる「埋蔵金」を指摘し注目された。08年に退官。10年から嘉悦大学教授。著書に 「さらば財務省!」(講談社)、「『年金問題』は嘘ばかり」(PHP新書)、「財務省を解体せよ!」(宝島社新書)など。


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