米国のトランプ大統領が北朝鮮との合意文書発表後に開いた記者会見は1時間5分に及び、トランプ大統領としては2番目に長い会見となった。
トランプ氏は終始饒舌だったが、米国がこれまで主張してきた「完全かつ検証可能で不可逆的な方式の非核化(CVID)」の文言が盛り込まれなかったことに関する批判的な質問も相次ぎ、トランプ氏は「25時間寝ていない」「時間がなかった」などと本音を次々に吐露。米韓合同軍事演習の取りやめも示唆しており、北朝鮮側に「大幅譲歩」したとの批判が高まる可能性がある。
「1万人に1人しかこんなことはできない」
2018年6月12日夕方の記者会見では、冒頭から厳しい質問が相次ぎ、売り言葉に買い言葉とばかりに「トランプ節」全開だった。トランプ氏はこれに先立つ合意文書の署名で、正恩氏のことを「才能がある」と表現。最初に出た質問は、
「金正恩氏は、ご存知のように、家族を殺害し、自国民を飢えさせ、オットー・ワーヌビア氏の死に責任を負っている。どうしてそういった人物を才能があると呼んで平気でいられるのか」
という厳しいものだった。これに対してトランプ氏は「彼は才能がある」と繰り返し、若くして指導者の立場を引き継いだことを評価し、「1万人に1人しかこんなことはできない」と主張した。
「時間がなかったからだ」
共同声明では、北朝鮮の体制保証を打ち出す一方で、「非核化」の具体的内容は明らかにならなかった。こういったことを念頭に置いた
「北朝鮮側から何か見返りはあったのか」
という質問には、
「聞いている。いつもメディアとケンカしたいわけじゃない。特に今日はそうだ。これは非常に重要だ」
「自分は何も断念していない。25時間寝ていない。でも、それが適切だと思った」
などと、夜を徹して閣僚らと会談の準備に臨んだことを強調した。政府のトップが睡眠不足で首脳会談に臨んだことを明かすのは珍しく、適切な意思決定ができたのか議論を呼びそうだ。
「検証可能」や「不可逆的な」といった文言を合意に盛り込めなかったことも問題視された。トランプ氏は、
「時間がなかったからだ。ここには1日しかいられない。(米朝首脳は)一緒に何時間も集中的に話し合った。(非核化に向けた)プロセスは行われるだろう」
と釈明し、事前に十分な詰めの協議が行えないまま首脳会談に突入したことをうかがわせた。
とりわけ問題になりそうなのが、米韓合同軍事演習をめぐるやり取りだ。トランプ氏は、在韓米軍については
「本国に帰れるようにしたいが、方程式の一部にはない」
と、現時点での削減を否定したものの、軍事演習については、今後の交渉によるとしながらも、
「戦争ゲームをやめ、多額の節約ができるだろう」
と発言。「韓国との軍事演習をやめるのか」という確認の質問には
「我々はこれを戦争ゲームと呼んでいる。非常に費用がかかる。韓国も(費用負担に)貢献しているが100%ではなく、話し合わなければいけない問題だ」
だとして費用負担への不満をもらし、軍事演習を「挑発的」だとも表現。
「包括的で完全な取引について交渉している状況で、戦争ゲームをするのは不適切」
だと述べた。
朝鮮中央通信「軍事演習中止&安全保証提供&制裁解除の意向を表明」
仮に軍事演習がなくなれば在韓米軍の抑止力が低下し、中国やロシアの脅威が増すことにもなりそうだ。会見では軍事演習について確定的な表現を避けたが、すでに会談で演習中止を北朝鮮側に表明してしまっている可能性もある。朝鮮中央通信によると、正恩氏が
「差し当たり相手を刺激して敵視する軍事行動を中止する勇断から下すべき」
と呼びかけたのに対して、トランプ氏は
「これに理解を表し、朝米間に善意の対話が行われる間、(北)朝鮮側が挑発と見なす米国・南朝鮮合同軍事演習を中止し、朝鮮民主主義人民共和国に対する安全保証を提供し、対話と協商を通じた関係改善が進むことに合わせて対朝鮮制裁を解除することができるとの意向を表明した」
と応じたとされる。仮に北朝鮮側の表現が正確だとすれば、「大幅譲歩」だという批判が高まりそうだ。
これに加えて問題視されているのが、「戦争ゲーム」という用語だ。オバマ政権で駐ロ大使を務めた政治学者のマイケル・マクフォール氏は、
「コメンテーターのみなさん、『戦争ゲーム』ではありません。これは敵の呼び方で、『軍事演習』です」
とツイートしている。