日本時間2018年6月12日、シンガポールで行われた史上初の米朝首脳会談。ドナルド・トランプ大統領、金正恩朝鮮労働党委員長の歴史的な対面のウラで、密かな注目を集めたツイッターアカウントがあった。
正恩氏になりきった日本語のジョークアカウント「金正恩【公式】」だ。今回の会談にあたっても、約1万5000人のフォロワーに向け、「緊張MAXで気を失いそう」「プレッシャーで飯が喉を通らない」などと、本人の心境を妄想する実況ツイートを繰り返していたのだ。
「トランプと握手するから見てろ」
以前から金正恩氏になりきっていたアカウント・「金正恩【公式】」による現地実況が始まったのは、正恩氏本人がシンガポールに入った10日からだ。到着直後には、「やっとシンガポール着いた。疲れた」「暑いわ 30度超えてるんじゃないか」とツイート。その後も、
「本日の予定は全て順調に終わり、今は自分の部屋でゆっくりしている」
「ホテルはすごいがこの風呂は落ち着いて入れなかった。何かそわそわする」
「トランプとその陣営が近くのホテルに滞在しているから何かあれだな。恐いような気恥ずかしいような」
など、本人になりきった妄想ツイートを重ねていた。
会談前日の11日夜には、「お前たち日本のフォロワーに聞いておきたい」と切り出し、会談で解決してほしいことを尋ねるアンケートを実施。これには3500票を超える投票が集まり、トップは「拉致被害者問題」(45%)だった。
そして当日。朝5時過ぎ(現地時間、以下同)に「目が覚めた よく眠れなかったな...」と報告し、続くツイートでは「本日は史上初、世界が注目する朝米会談。緊張して吐きそう」。その後、トランプ氏が宿泊先のホテルを出発した10時過ぎには、
「緊張して意識がもうろうとして来た...」
「カペラホテル(編注・会談の会場)に到着したら緊張MAXで気を失いそうだ」
などと弱気な呟きを繰り返していた。
ただ、歴史的会見を間近に控える中でも、フォロワーからの質問に気さくに応じていた。「髪の毛整えた?」との質問には、「いつもより正確に整えた」。また、「今朝は何を食べましたか?」には、「プレッシャーで飯が喉を通らない」と答えていた。
会談前最後のツイートは、10時30分に投稿された「カペラホテルについた。ここからツイート出来なくなるが、最後はトランプと握手するから見てろ」。なお、実際に正恩氏とトランプ氏が握手を交わしたのは会談冒頭だった。
「あまり携帯いじると怪しまれる」
その後、つぶやきを中断していた「金正恩【公式】」は、会談が終わった後の13時30分頃から実況ツイートを再開した。
まず、会談の内容を「事前協議より踏み込んだ内容まで行った」と振り返った上で、「トランプ、その側近と雑談中」と報告。緊張しきりだったトランプ氏との対面については、
「実物のトランプは口調優しいから緊張が少しほぐれたわ...」
と安堵した様子だった。一仕事を終えて余裕が出てきたのか、この日の会食で楽しみなメニューを尋ねたフォロワーからの質問に、
「牛ショートリブコンフィだ あまり携帯いじると怪しまれる」
と答える一幕もあった。
さらに16時前には「署名式終わった これこら平壌帰る疲れた...」(原文ママ)とポツリ。ただ会食で口にした料理の味については、「緊張して何食ったか覚えてない」としていた。その後、18時過ぎには、トランプ氏の投稿を引用リツイートしながら、
「Thank you for your effort. History moved」
と感謝を述べていた。
――このように、世界中から注目を集めた米朝両首脳の初会談の裏で、コミカルな妄想実況を続けた同アカウントの動きは、国内のネットユーザーの注目を集めることに。ツイッターには、
「金正恩【公式】のTwitterから目が離せないwww」
「『金正恩【公式】』アカウントの作り出す臨場感すごい」
「このアカウント本物じゃないの??wwwと思えてくる米朝の進みっぷりwww」
といった投稿が相次いでいる。
開設当初は「金正日」だった
なお、「金正恩【公式】」のアカウントがフォローしているのは、安倍晋三首相、バラク・オバマ前米大統領、トランプ氏、韓国の文在寅(ムンジェイン)大統領、そして11日夜にシンガポール市内を観光案内したバラクリシュナン外相の5人だ(12日17時現在)。
プロフィール欄では、「朝鮮労働党委員長 / モランボン楽団音楽プロデューサー」と自己紹介。そのほか、存在しないウェブサイト「http://www.金正恩.com」のURLも掲載していた。
なお、アカウントの開設は2011年10月。ツイート履歴やフォロワーの反応などを追っていくと、開設当初は正恩氏の父・金正日総書記になりきっていたようだ。正日氏の死後には、プロフィールなどを正恩氏のものに鞍替え。親子二代にわたって、なりきりツイートを繰り返している。