キヤノンは2018年5月30日、フィルムカメラとして最後まで残っていたプロ仕様の最高級一眼レフカメラ「EOS-1v」の出荷を終了した。同機の生産は2010年に既に終了しており、在庫の出荷だけを続けていた。フィルムカメラをめぐっては、富士フイルムが白黒フィルムの出荷を2018年10月に終了すると発表しており、デジタル化の進展でアナログ市場の縮小は避けられそうにない。
フィルムカメラと白黒フィルムはプロや愛好家だけでなく、写真を専門に学ぶ学生向けに生産が続いてきた。しかし、業界関係者によると、国内を代表する芸術系大学の写真学科でも白黒フィルムの現像を学ばなくなったという。一眼レフカメラで、自分で露出を決め、撮影した白黒フィルムを自分で現像し、暗室で印画紙にプリント(紙焼き)することは、写真の基礎を学ぶのに欠かせなかった。しかし、デジタル化の進展でその必要性が薄れたということなのだろう。
ニコン、フィルム一眼レフ2機種を販売中
大手カメラメーカーでは、ニコンがフィルム一眼レフカメラ2機種の販売を続けているが、キヤノンの撤退で今後の行方が注目される。キヤノンのフィルムカメラ終了はマスコミの注目度が強く、新聞各紙は「キヤノンのフィルムカメラは約80年の歴史に幕を閉じた」などと報じた。キヤノンはEOS-1vについて「2025年10月31日まで修理対応を行う」としている。
一方、富士フイルムは「ネオパン」のブランドで親しまれた白黒フィルムのうち、最後まで残った「ネオパン100ACROS」の出荷を2018年10月に終了する。白黒の印画紙も同月以降に順次、出荷終了となる。同社の子会社で販売を担当する富士フイルムイメージングシステムズは「長年ご愛用いただきましたフィルムおよび印画紙につきまして、生産効率の向上や経費節減など懸命なコスト吸収につとめてきましたが、需要の継続的な減少により安定的な供給が困難となりましたので、販売を終了させていただきます」とコメントした。
白黒フィルム、「再販」の動きも
富士フイルムの白黒フィルムの出荷は1960年代にピークをつけ、最近の売り上げ実績は当時の1%以下。富士フイルムによると、年率15~20%のペースで需要が減っていたという。富士フイルムの白黒フィルムの発売は1936年で、こちらは約82年の歴史に幕を下ろすことになる。
もっとも白黒フィルムは日本国内でコダックが販売を継続しているほか、新たに高感度フィルムが復活する動きもある。コダックアラリスジャパンは2018年5月23日、高感度の「コダックプロフェッショナルT-MAX3200」を今夏、日本で再販売すると発表した。同社は「近年のフィルム撮影需要の分析において、白黒フィルムの売れ行きが伸びている市場の傾向から判断して、日本での再販売を開始する」としている。富士フイルムの撤退で、ライバルのコダックは白黒フィルムの世界的シェアを拡大できるということか。
キヤノンと富士フイルムが、フィルムカメラと白黒フィルムの販売を終了するのは時代の流れだが、当面はニコンとコダックで白黒写真を楽しむことができるのが、マニアには救いだ。