米朝首脳会談に注目が集まる中、北朝鮮内部に密着したドキュメンタリー映画「ワンダーランド北朝鮮」が2018年6月末に公開される。
韓国出身でドイツの単科大学で映画製作を教えているチョ・ソンヒョン監督(52)が、韓国国籍を捨ててドイツのパスポートを取得の上、北朝鮮で撮影を敢行。北朝鮮で映画を撮影する以上、検閲など当局の介入は避けられない。それでも、インタビューに北朝鮮側の担当者を立ち会わせないなど努力を重ね、兵士、農家、画家、工場労働者など、様々な「普通の人々」の表情を映し出している。
公務員画家「気分が乗らないときは絵を描かずに本を読む」
チョ監督は12~14年に4回にわたって現地取材を行い、実際の撮影は14年9月の4週間、15年4月の1週間の2回にわたって行われた。撮影の対象は、チョ監督のリクエストに対して北朝鮮側が出した候補の中から選んだ。その対象は多岐にわたる。
幼稚園で園児が
「金正恩元帥様ありがとうございます」
などと歌う場面をはじめ、出演する人々からは政権に対する賛辞が相次ぐ。ただ、人々が口にするのは当局が「積極的に見せたい」ことだけではないようだ。近く軍を退職するという20代の女性が、交際相手とのなれそめを恥ずかしそうに明かしたり、東部・元山(ウォンサン)の縫製工場の女性従業員は、
「独創的な服を作り、人々が着てくれるのを見てられたらうれしい」
と夢を語ったりした。公務員画家は、紡績工場で働く女性にポーズを取らせて写真を撮っていたが、いざ作業場でインタビューすると、カンバスに描かれていたのは別の女性の顔。別の写真に写っていた顔と差し替えたといい、「誰でも肖像画を描かれる時は、美しく描いて欲しいと思うでしょう」と悪びれない。さらに、
「気分が乗らないときは絵を描かずに本を読む」
ともぶっちゃけた。
北朝鮮の「監視」退けた一言は
ただ、最初からこういった話が聞けたわけではない。チョ監督は18年5月に都内で行われたシンポジウムで明らかにしたところによると、インタビューした人の中では、この画家が一番性格が明るかったが、それでも「(北朝鮮側の)同行する人が見張る中では、中々言葉もうまく出てこない」。
このままでは映画が成立しなくなると危機感を持ったチョ監督は、北朝鮮側の担当者に
「このままだと、あなた方の共和国(北朝鮮)の画家さんや人民が、まるできちんと話すこともできない人みたいに映ってしまう。ロボットみたいに映る映像が世界に出て行っていいのか。あなたたちに席を外してもらえれば、自然でありのままで自信を持って、しかも面白く撮影ができる。祖国と民族のために、どっちがプラスになるのか」
などと迫り、北朝鮮側の担当者がいない状態でインタビューをやり直すことができたという。
経済制裁に触れた場面もある。前出の元山(ウォンサン)の縫製工場のマネジャーは、中国を経由して米国などに西側諸国に輸出していることを明かし、輸出については制裁が事実上骨抜きになっていることをうかがわせた。
それ以外にも、農家で太陽光発電でテレビを見たり、平壌市内の紋繍(ムンス)プールの担当者が「電力消費を抑えるために地熱を活用している」などと話す場面も登場。電力事情の悪化を背景に、再生可能エネルギーの活用が進んでいる一面も映し出されている。
映画は6月30日からシアター・イメージフォーラム(東京)などで上映が始まり、全国の劇場で順次公開される。