中西経団連がスタートした。2018年5月31日の総会で、榊原定征会長(75)の後任として、日立製作所の中西宏明会長(72)を正式に選出。最近の会長選びは、引き受け手がおらず、難航するケースが多かったが、今回は「大本命」にすんなりと決まった。経済界を代表し、安倍政権にもモノ申せるか、その手腕が問われそうだ。
中西氏は東京大工学部卒業後、1970年に日立に入社。米スタンフォード大大学院に留学経験があり、欧米での勤務経験が長い国際派として知られる。2008年のリーマンショックなどで巨額赤字に陥った日立を再建したのは川村隆社長(当時)の功績が大きいが、その川村氏を副社長として支えたのが中西氏だった。2010年、川村氏の後任社長に就任し、再建を確かなものにした。
「ソサエティー5.0」の重要性を強調
2014年に日立社長から会長に就任。経団連副会長も引き受け、財界活動を本格化させる。日立は言わずとしれた日本を代表する製造業の大企業だが、過去、経団連会長を輩出していない。「財界活動には消極的」とみる向きもあったが、当の中西氏は副会長時代から、まんざらでもない様子だった、と周辺は指摘する。
副会長時代から力を入れているのが、「Society(ソサエティー)5.0」の推進だ。狩猟社会、農耕社会、工業社会、情報社会に続く第5段階の社会を「超スマート社会」と位置づけ、人工知能(AI)や、あらゆるモノがネットにつながる「IoT」を活用して、官民挙げて社会のあり方を変えていくことが成長につながるという考えだ。会長選出後の記者会見でもソサエティー5.0の重要性を強調した。
問題は、政府と利害が一致しない場合、どう対応するかだ。例えば財政再建や社会保障制度改革。国民への「痛み」の押しつけを嫌い、政府の取り組みは甘くなりがちだ。第2次安倍政権以降、消費税引き上げは2度延期された。中西氏は2019年10月に予定される消費増税について「延ばす選択肢はあり得ない」と明言する。今後の経済情勢次第とはいえ、政治に再び先送りの動きが出た場合、その主張を曲げずに政府にモノ申せるかが問われる。
「さくら会」のメンバー
政界と財界の関係で近年の特徴が、政府が経済界に賃上げを求める「官製春闘」。これには、「賃上げ率は経営者と従業員の協議を通じて決めていく問題」と疑問を呈する。実際に政府から要請された時、どう対応するのかが注目される。
中西氏は安倍首相を囲む経済人の集まり「さくら会」のメンバー。安倍政権については「極めて高く評価する。円高など6重苦が解消され、外交力で日本の立場が大きく改善した」と称えている。
政治との向き合い方については「対立して厳しいことを言うのが経団連の役割とは考えない。率直に意見交換できる関係をどうつくるか」との認識を示す。前任の榊原氏は政権との距離が近すぎたとの批判もあるだけに、その「間合い」に注目が集まりそうだ。