「私たちは(絵文字から)卵を取り除き、より『包括的』なヴィーガン・サラダとしました」――Googleの担当者が、こんなツイート(以下、原文は英語)を発したのは2018年6月7日(日本時間)のことだ。
この日、Googleは次期モバイル向けOS「Android P」の新バージョン「Beta 2」を、開発者向けに公開した。中でも関心を集めたのは、「絵文字(emoji)」のアップデートだ。新しい絵柄の追加のほか、既存のものも、ジェンダーや人種的な多様性に配慮したものに差し替えられるなど、最近のトレンドに沿った更新となった。
サラダにゆで卵、なぜダメなのか
ところが、一つの絵文字の変化が、国際的な反響を呼ぶこととなった。
「サラダ」だ。
これまでの「サラダ」の絵文字は、ボウルにレタス、トマトの輪切りに加え、スライスされたゆで卵が描かれたものだった。ところが、新たな「サラダ」からは、ゆで卵が消失してしまった。
いったいなぜか。それは、「ヴィーガン」への配慮からである。
ヴィーガンは菜食主義者の中でも「厳格」な人たちだ。彼らの中には、肉などはもちろんのこと、卵や乳製品も、口にすべきでない、とする人が少なくない。ヴィーガンは、米国では人口の5%にも達するとの統計もある。彼らが「食べられない」サラダを、絵文字にするのはいかがなものか。
こうしたマイノリティーを尊重する考えから、サラダから「卵」は消えたのだ。
開発者のツイートには、「神改変だ。バーチャル・サラダ(絵文字)を見るたび、心臓発作を起こさなくて済む」「卵は悪」など、喜びの声も寄せられる。だが、多数派は、やりすぎでは?という疑問と、皮肉のリプライだ。
「僕はトマトアレルギーだ」「人類が滅びる」
たとえばあるユーザーは、
「チームのみんなで話し合うべきかもしれない。自分たちが仕事の時間を使って、何をやっているかをだ。『より包括的なサラダの絵文字』......真剣にね」
と、開発チームを揶揄する。欧州在住だという別のユーザーも、本気かジョークか、こうからかう。
「僕はトマトアレルギーなんだ。これは僕みたいな人間にとっては、『包括的』じゃないね」
ほかにも、「なんてことに力を浪費してるんだ。人類が滅びるぞ」「俺はケールかテンサイのサラダしか食べない」「選択の自由を」など、多数の書き込みが。中には、「#bringbacktheegg(#卵を返せ)」なるハッシュタグで呼びかけを行う「過激派」もいるほどだ。
さらに「リアル」にも議論は広がっている。
英業界団体も異例の反応
英デイリー・テレグラフ(ウェブ版)によれば、業界団体である英国鶏卵産業協会はメディアの取材に対し、「ヴィーガンが卵を食べないのは承知しているが、英国では卵は5%近く売り上げを伸ばしており、多くの人々に愛されている。問題ある一グループの懸念から、多数派を取り逃がすのは残念だ」「Googleのような会社が、少数の活動家のゆがんだ思想に屈するなど、ばかげている」とコメントしたという。
国際的な議論になりつつある「サラダの絵文字」問題、前述のGoogleの担当者はツイッターで、冗談交じりの口調でこんな「釈明」も載せている。
「肉食、ヴィーガン、その間の皆さん、こんにちは。サラダの絵文字を変えたのは、Unicode(文字コードの業界規格)にもっと忠実なものにしたかったということだけ、明確にしておきたいと思います。(Unicodeでのサラダの説明は)『レタス、トマトや、キュウリなどが入った、ボウルに入ったヘルシーなサラダ』。さあ、召し上がれ!」