「賢い人は失敗を、ばか者は成功を考える」 医療技術で産業と生きがいの創出を

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    画期的な医療技術で経済成長を図り、活気ある国、生きがいを作ろう・・・日本医師会と米国医療機器・IVD工業会(AMDD) 、先進医療技術工業会 (AdvaMed) が主催するシンポジウムが2018年 6月 1日、東京で開かれた。

   近年は画期的な医療機器が次々に登場、早期発見や早期回復で健康寿命を延ばし、生産性や社会の活力を向上させているとし、医療者・研究者や行政、企業の協力の必要性が浮かび上がった。

  • ペースメーカーはじめ医療機器の進化は著しい
    ペースメーカーはじめ医療機器の進化は著しい
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先端機器のほとんどが外国製

    基調対談は米国メドトロニック社のロバート・コワル博士とスタンフォード大学の池野文昭・主任研究員。コワル博士は1957年から始まるメドトロニック社の心臓ペースメーカー開発の歴史を振り返った。同社は1960年に会社の使命 (ミッション) を策定した。医療機器で人類の福祉に貢献する、得意な生体工学技術分野に集中、品質向上への努力を欠かさないなど。体外式から体内埋め込み式、MRI対応型、小型化、電源延長、そして2016年販売の最新型のリードレスペースメーカーへと常に世界の先頭を走り続けた。

   コワルさんが紹介したリードレスペースメーカーは長さ約2.5 ミリ、重さ1.75グラムのカプセル型、リード線はなくフックで心室に止める。電池寿命は12.5年。日本の新規患者の44%はリードレスを選んでいる、という。

   池野さんとの質問にコワルさんは「会社の使命は患者の生きがい回復であり、医療の目標だ。9000人の技術者がいかに合併症を減らすかを考えてきた。何が優先課題かを技術者に知らせることが重要だ」と強調した。

   続くシンポジウムには池野さん、官庁を含め 6人が登壇した。患者代表のバレエ教師小島祥子さんは、変形性股関節症で2014年に大腿骨骨頭置換手術を受けた。「人工関節=障害者、と思い、レッスンも止め、痛みに耐えて手術を拒否していたのは間違いだった」と手術への感謝を語った。

   心臓カテーテル治療専門の横井宏佳・福岡山王病院循環器センター長は40年間の治療の進歩、そしてその機器のほとんどが外国製であると指摘した。かつては行政のせいにしていたが、学会での討論などから、医師だけではだめで行政、企業との協力が不可欠と感じるようになった、という。

   江崎禎英・経産省政策統括調整官兼内閣官房医療戦略室次長は、医療機器はトライアンドエラーで進むが、日本企業は技術はあるのに怖がった。従来は医療以外の製品で商売できたが、これからは世界に貢献できる医療技術が重要だと語った。

   へき地医療の経験もある医師の池野さんは2001年スタンフォード大学に移り、衝撃を受けた。米国では医学部を出ても医師にならない人が少なくない。臨床医は目の前の患者だけだが、医療技術者は多くの患者を相手にする。池野さんは「若者、よそ者、ばか者がベンチャーを目指す」という。「賢い人は失敗した時、ばか者は成功した時を考える」。日本にベンチャー企業が少ないのは賢い人が多いせいのようだ。

   活発な意見が飛び交った。池野さんによると、米国の学生の多くが日本行きを希望している。日本は高齢化最先進国で、日本の健康保険データは外から見ると宝の山。これを発掘して世界の高齢化に活用する意図という。江崎さんは「企業はお客の声を、医療は患者の要望をもっと聞く必要がある。何かがあるとマスメディアは攻撃する。頭がよすぎるとリスクばかりを考える。イノベーションとは常識を変えること。日本人はこれまでの常識を変えなければいけない」と話し、賛同を得た。

(医療ジャーナリスト・田辺功)

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