本を読んでいると「ダンゴムシの裏側の画像がたくさん出てきて、気持ち悪くなった」――。
そう答えるのは、バンダイの新作カプセルトイ『だんごむし』の開発担当者だ。全長140ミリの巨大なダンゴムシのおもちゃを作り上げた男は、意外にも「柔らか系の虫は全般的に苦手」なのだという。
製作に要した期間は、カプセルトイでは異例の2年だ。一体どのようにして、ニガテな虫と向き合ったのか。本人がこの2年間を振り返った。
「虫の日」にリリース
バンダイは2018年8月第5週、ダンゴムシを再現したカプセルトイ『だんごむし』を、全国のカプセル自販機で発売する。
プレスリリースによると、いつの時代も多くの子どもたちを魅了してきた生き物・ダンゴムシと、むきだしの状態で出てくるカプセルトイ(カプセルレス玩具)を「融合」させた。世界初となるダンゴムシの1000%スケールモデルのカプセルレス玩具だ。
丸めると直径約74ミリ、広げると全長140ミリ。「昆虫が苦手」な開発担当者が文献や図鑑を読み込み、ダンゴムシ特有の複雑な構造を徹底的に研究しながら、試作を重ねた。カプセルトイの製作期間としては異例の2年を経て、ダンゴムシが丸くなる様子を完全に再現した。
バンダイが「虫の日」の6月4日、『だんごむし』のプレスリリースを発表すると、ツイッターのトレンド欄に「ダンゴムシ」が入るなど、インターネット上で大きな注目を集めることに。「無駄にリアルだなw」「カプセルケース抜きでこの状態で出てくるのォ...」といった声が寄せられた。
中でも注目を集めたのが、「昆虫が苦手」な開発担当者だ。ダンゴムシは昆虫ではないので、どこまで苦手としているか分からない。それでも仮に、虫全般をニガテとしているのなら、2年間もダンゴムシと向き合う苦労は想像するにあまりあるに違いない。
虫嫌いの原点は、小6の「カマキリ」
バンダイの広報担当者によると、開発担当者はかなり経験豊富な男性社員だ。男児向け玩具の事業部配属後、9年間の香港駐在、3年間のフランス駐在を経験。さらにコレクターズ事業部に移り、現在はベンダー事業部の企画・開発第2チームに在籍している。
開発担当者は今回、J-CASTニュース編集部の取材依頼を承諾。以下のような回答が6日夕、広報担当者を通じ、返ってきた。
――「昆虫が苦手」だそうですね。特に苦手な虫はありますか?
「カブトムシやクワガタのような堅い虫は好きですが、柔らか系の虫は全般的に苦手です。こどもの頃は虫だけでなく生き物なら何でも大好きでいろんなものを飼っているような子どもだったのですが、小学6年の時に、捕獲したカマキリに首が付いておらず、それでも学校の花壇で普通に生き続けているのを見て虫が怖くなり、その後、ほとんどの虫が嫌いになりました」
――今回の商品を開発する前、ダンゴムシで遊んだことはありましたか?
「自分が子供のころはよくダンゴムシで遊んでいました。また、娘が小学2年生の時にダンゴムシにハマったので、それで一緒に遊びました。ダンゴムシは壁にぶつかると右、左と交互に方向を変えるなどいろんなことを学びました」
――「昆虫が苦手」なのになぜ、巨大ダンゴムシのカプセルトイを作ることになったのでしょうか?
「ザクヘッドというカプセルを使わない商品の企画をしているときに、丸くないものを丸い形に変形させるのに非常に大変な思いをしていました。その時に、初めから丸いダンゴムシは究極のカプセルレス商品になるということに気が付きました。
しかも、小さな生き物というイメージの強いダンゴムシを大きなサイズにすれば、そのインパクトが強烈で話題になるということと、娘がダンゴムシにハマっていたことを思い出し、誰もが子供時代に一度はこの虫にハマる時期があるのだったら、大人向けに企画すれば、かなりの人が昔を思い出し、すごく興味を持ってもらえるのではないかと思ったためです。
で、カプセル自販機からダンゴムシがゴロンと出ていて購入して頂いた方の驚く顔が想像できたので、どうにか商品化してみたいという気持ちになりました」
気持ち悪さを軽減するための工夫
――「ダンゴムシ特有の複雑な構造」を徹底研究したそうですね。この商品を作る上で、本物のダンゴムシも観察したのでしょうか?
「おもに、本を見て研究しました。ただ、本だと、見たくもないたくさんの種類のダンゴムシの裏側の画像がたくさん出てきて、気持ち悪くなるので、今回発売する『オカダンゴムシ』に関するページしか開かないようにして研究しました」
――文献や図鑑は、おおよそどのくらいの数を読みましたか?
「4冊、本を購入しましたが、よく使ったのはその中の2冊だけです。それだけでも、十二分なほど詳細な画像と内容が載っていました。それ以上読むと、気持ち悪くて開発が止まってしまったと思います。(笑)」
――ダンゴムシを再現する上で最も難しかったのは、具体的にどんな点でしたか?
「最初は簡単に丸くなると考えて試作を作成したのですが、その時に普通に通常の方法だと丸くすることが出来ないということに気が付きました。
実際のダンゴムシは体が収縮など出来る特別な体を持っているので、丸くなったり、伸びたりできるのですが、それをフィギュアで再現しようとすると、内部のパーツがお互い干渉しあい、丸く閉じることできませんでした。逆に内側の足などすべてが入るように調整すると、広げた際に殻と殻の間に大きな隙間が開いてしまい本物のダンゴムシの形状とは大幅に異なってしまいました。
丸い状態でも開いた状態でも本物のダンゴムシと同じ形状に出来ないと当初の自分の思惑と違うものになるため、その後は思いつく構造で何度も試作を作成して試していきました」
「プレゼンで通せる自信がなかった」
――2年の歳月をかけて、試作を重ねている時、どんなことを考えていましたか?
「実は、開発しているときは、もう一つ別の問題を抱えており、その突破方法を考えながら進めていました。その問題とは、もし、本当に変形が可能なダンゴムシが完成できたとしても、この商品をプレゼンで通せる自信がありませんでした。
当時は人気の後ろ盾がないノンキャラクター商品を通すのは簡単なことではありませんでした。しかもそれがメジャーな猫や犬でなく、ダンゴムシであるということ。さらに、カプセル玩具のなかでは最も高額な500円という価格でないと今回の機構の商品が実現できないという問題があったからです。当時から、500円のノンキャラクター商品の提案はかなりハードルが高いものでした。
開発しているときは、このもう一つの壁をどうやれば突破できるか?ということを考え続けていました」
「転機が訪れたのは、カプセルレスのザクヘッドが昨年大ヒットをした時です。社内に『実績がなくても、面白い企画であれば500円商品でも売れる』という雰囲気が出始め、かすかながらもこの企画を通せる可能性が出てきました。
そこで、その時点ではまだ完全に丸くなる機構が完成してはいなかったのですが、目途が立ち始めてきた時期だったので、潮目が変わる前にプレゼンで押し通しました。
その後は、後ろに引けなくなったので、必死で完成させました」
――この商品を手に取るかもしれない人へのメッセージをお願いします。
「子供時代にダンゴムシで遊んだ思い出がある方へ
この巨大ダンゴムシを見て気持ち悪いと思った方も、まずはこのだんごむしをそばに置いておいてもらえれば不思議とかわいく感じてもらえるはずです。
そして、もし、自分のお子様がダンゴムシにハマっているのであれば、一緒にこの商品で遊んでもらえればと思います。
ダンゴムシの甲殻はすべて異なる形状をしており、それが重なりあってきれいな丸い形状になります。その構造は非常に興味深いものがありますので、ぜひともお子様と一緒に観察してもらえればと思います。
今もあなたのすぐ近くで生息しており、気にも留めなかったダンゴムシが、今後はちょっとかわいく感じてもらえるかもしれません。(笑)」
ノーマルの「黒色だんごむし」と、「青いだんごむし」「白いだんごむし」(いずれも実在する)の3種がある。主なターゲットは、子どもの頃にダンゴムシで遊んだことを思い出してほしい15歳以上の男性だ。
これらの商品は6月7~10日、東京ビッグサイトで開催する「東京おもちゃショー2018」のバンダイブースでお披露目を迎える。