「スイミー」朗読は「きっと、離れて暮らしている親に聞かせたいんじゃないか」
記者の
「この社会問題をテーマに選んだ関係上、聴衆の対象として、監督の頭の中に、政治を生業(なりわい)とする方とか、あるいは官僚の皆さんはイメージの中にあったのか」
という質問には、
「ありませんでした」
と断言。是枝氏は、テレビ番組を制作していた頃、先輩から
「誰か一人に向かって作れ。テレビみたいに不特定多数に向かって流すものほど、一人の顔を思い浮かべながら作れ」
と教えられていたという。
是枝氏が最も印象に残ったこととして挙げたのが、親から虐待を受けていた子どもが過ごす施設での取材だ。ランドセルを背負って施設に帰ってきた女の子に声をかけたところ、国語の教科書を取り出して『スイミー』を読み始めた。施設の職員が「忙しいからやめなさい」というのを聞かずに最後まで読みきり、是枝氏らがほめると、女の子は嬉しそうに笑ったという。是枝氏は
「この子はきっと、離れて暮らしている親に聞かせたいんじゃないか」
と思ったといい、脚本にも「スイミー」を読む場面を反映させたという。
是枝氏は、記者の質問に
「今回は、今言われてはっきり分かりましたが、その『スイミー』を読んでくれた女の子に向かって作ってると思います」
と答えた。