米トランプ政権の自由貿易への「敵対姿勢」がエスカレートしている。2018年5月下旬には、輸入する自動車・同部品に新たな関税を課す検討に入った。高関税を発動した鉄鋼・アルミ製品にならい、米通商拡大法232条に基づき、輸入増が「国家安全保障上の脅威」になっている可能性があるという理屈で、関税を現行の2.5%から最大25%に引き上げる案が検討されているという。当然ながら、対米輸出が多い日本など各国は一斉に反発し、世界的な貿易摩擦から「貿易戦争」に発展することを懸念する声が強まっている。
トランプ大統領は5月23日、調査をロス商務長官に指示した際の声明で「自動車・同部品のような中核産業は、国家としての強さに不可欠だ」と強調。ロス長官は「何十年もの輸入で米自動車産業が損なわれたことを示す証拠がある」として、研究開発力の低下などが安全保障に悪影響を与えることがないか調べるとの考えを示している。
米中間選挙との関係
トランプ政権は2017年4月、同じ条項に基づいて鉄鋼・アルミの輸入品の調査に着手し、約1年後の18年3月、それぞれ25%と10%の新たな関税をかける措置を発動した。自動車についても同様の経過をたどるのかは不明だが、トランプ政権の狙いが、11月の米中間選挙に向け、「ラストベルト(さびついた工業地帯)」と呼ばれる自動車などの製造業が衰退した地域の支持者向けのアピールにあるのは間違いない。
もう一つの狙いは、通商交渉で有利な展開に持ち込みたいということだ。トランプ大統領は、鉄鋼などの関税について、北米自由貿易協定(NAFTA)の再交渉中のメキシコ、カナダ、自動車関税などで交渉中の欧州連合(EU)に5月末まで発動を猶予したのは、妥協を迫るツールと位置付けているからだ。6月になって、猶予を解除し、関税を発動したのは、当面、交渉進展が望めず、中間選挙に向け、国内への強硬姿勢をアピールする方がいいとの判断と見られるが、今後、自動車への高関税も、他国との通商交渉での「武器」になる。
ただ、鉄鋼関税発動に対し、カナダは世界貿易機関(WTO)への提訴を表明、EUはWTO提訴のほか、報復関税の発動を表明するなど、「貿易戦争」の様相が強まっている。
日本はどうか。鉄鋼とアルミの米国への輸出は年間約2200億円で、しかも日本が輸出する製品は米企業が代替できない高付加価値品が多く、高関税でも、大した実害はない。これに対して自動車は影響が深刻だ。車の輸出額は約4.6兆円と輸出額全体の3割を占め、さらに自動車部品の対米輸出額も約9000億円ある。メキシコやカナダに進出して生産している日系メーカーも多い。日本自動車工業会によると、日本から輸出する乗用車やトラックのうち米国向けは177万台(2017年度)で、トヨタ自動車やホンダなどは、メキシコから米国への輸出も増やしてきた。マツダは米国での生産はなく、すべて日本とメキシコから輸出している。ドイツのシンクタンクは、輸入制限が発動された際に各国が受ける影響試算をまとめた中で、日本は国内総生産(GDP)が最大で42億5600万ユーロ(約5450億円)減少するとしている。