試用期間中は「お金を払って働いていただく」――。出版社のエムエムブックス(岐阜県美濃市)が、こんな内容の求人告知を掲載したことが、インターネット上で波紋を広げている。
ネット上で否定的な意見が相次いだことを受け、出版社側は「説明不足だった」などとして謝罪。あわせて、告知していた条件での求人は中止すると発表した。いったい、出版社側の狙いは何だったのか。
給与の支払いは「試用期間」の終了後
エムエムブックスは2018年5月30日、「マネージャー&アシスタント募集」などとした告知を公式サイト上に掲載した。同社は、文筆家・編集者の服部みれい氏が設立した小規模な出版社で、ライフスタイル誌「マーマーマガジン」を発行している。
今回の求人では、「『お金を払って働いていただく』という試みを行いたいと思います」と宣言。募集する人材の条件について、次のように記載していた。
「試用期間中(1~3か月)、『ここで学んだ』ということに対して対価を払っていただける方」
スタッフが会社側へ支払う「対価」については、「みなさまが『学んだ』と思うに見合う額を自由にお支払いください」と説明。給与は、試用期間が終わった後から支払う予定としていた。
業務内容に関しては、雑誌編集や書籍の執筆補助のほか、「畑仕事から犬の散歩まであらゆることが含まれます」。勤務時間は平日の朝9時から17時30分までだった。また、その他の募集条件として、
(1)過去に編集経験があること
(2)通勤時間が30分以内の場所に住んでいること
なども設けていた。
こうした条件で人材を募集した理由について、服部氏は求人ページの中で、「仕事は、本当に『お金がもらえるから働く』がすべてでしょうか?」との持論を展開。続けて、
「お金がほしいのではありません。お金が惜しいのでもありません。お金を払ってでもやってみたいという意欲がほしいのです。なぜなら、今後、本気で、人間がする仕事が、そういう仕事しか残っていかないとわたしも感じているからです」
などと訴えていた。
「労働基準法に思いっきり引っかかるのでは?」
だが、労働者側が逆に会社に金銭を支払うという条件をめぐって、ツイッターやネット掲示板では批判的な意見が相次ぐことになった。「ブラックどころの騒ぎじゃない」「やりがい搾取より酷い」といった意見のほか、
「そもそも労働基準法に思いっきり引っかかるのでは?」
と問題視するユーザーの姿も目立っていた。ただ一方で、雑誌のファンとみられるユーザーからは、「おもしろい採用方法」「すごい発想だ」との声も出ていた。
こうしたネット上での反響を受けて、エムエムブックス側は31日朝までに、問題の告知ページを削除し、当初の条件での求人を中止すると発表。さらに服部氏の名義で、
「不快な思いをされたかたにはたいへん説明不足だったと感じています。いずれにしても、不安感やお怒りを促してしまう結果になり、こころからお詫びをもうしあげます」
などと謝罪した。ただ、今後も求人は続けるとして、賃金や労働時間などの条件面については、
「充分なお話し合いのなかで、適切な内容を決めさせていただけたら」
と改めて呼びかけていた。
出版社側「考えが甘かった」
今回の騒動について、エムエムブックスの男性従業員は31日昼のJ-CASTニュースの取材に、「本当に、搾取をする意図はありませんでした。誤解を招く結果となり、申し訳なく思っています」と謝罪した。
労働基準法に違反する可能性が指摘されている点を尋ねると、
「今回の求人は、社長も含めて社内で議論した上で決定したものでした。ですが、労基法の件については、特に深く考えていなかったというか、考えが甘かったというか...。こちらの考え方としては、専門学校のようなイメージだったんです」
と話していた。
労基法の観点から見て、今回の求人に問題はあったのか。厚労省の労働基準局監督課の担当者は取材に対し、「今回のような場合では、実態としての労働者性の有無が重要になります」と説明する。
要するに、労働基準法の適用対象となるかどうかの問題だ。もちろん、労働者性があると判断されれば、例え試用期間であっても雇用者には最低賃金以上の支払いをする義務が生じる。
それでは、今回のケースはどちらにあたるのか。担当者は「個々の事例は総合的に判断する必要があるため、あくまで一般論としての話になります」と前置きした上で、
「編集補助という業務内容や使用従属性(編注・指揮監督や拘束性などの有無)の観点から考えると、今回のような求人の場合では『労働者性がある』とみなすのが相当だと思われます」
とした。