J-CASTニュース山里亮太名誉編集長(左)と、北朝鮮情報専門サイト「デイリーNKジャパン」編集長の高英起さん
J-CASTニュース山里亮太名誉編集長(左)と、北朝鮮情報専門サイト「デイリーNKジャパン」編集長の高英起さん

   一度は2018年6月12日、シンガポールで行われると発表された「米朝首脳会談」。トランプ大統領が中止を発表したものの、再び両国は歩み寄りを見せ、改めて6月12日の開催に意欲を見せています。

   歴史的な会談は本当に開かれるのか。J-CASTニュース名誉編集長の山里亮太が、北朝鮮情報専門サイト「デイリーNKジャパン」編集長の高英起(コウ・ヨンギ)氏に、2人の主人公、金正恩氏とドナルド・トランプ氏とは、どんな関係なのかを、緊急取材しました。

どうなる米朝首脳会談(ドナルド・トランプ米国大統領(左)、金正恩委員長(右))
どうなる米朝首脳会談(ドナルド・トランプ米国大統領(左)、金正恩委員長(右))

山里: ずっと行われてこなかった「米朝首脳会談」が、あれよあれよという間に開催が決まったと思ったら、トランプ大統領が中止を宣言してしまいました。これはどういうことなのでしょうか。

高: トランプ氏も金正恩氏も、会談はやりたいはずです。そのために韓国は懸命に仲介役に徹しましたが、ここにきて中国がしゃしゃり出てきました。もともと北朝鮮に最も影響力があるといわれてきた中国が、自分たちを抜きに米朝関係が改善することは気に入らない。そこで習近平国家主席が金正恩氏と会談してやっと数年来、悪化していた中朝関係が改善に向けて動き、その後、それほど時間を置かずに2回目の中朝首脳会談が開かれました。ここで金正恩氏は過信をしたのではないでしょうか。

山里: 過信ですか?

高: これまで相手にしてくれなかった米国と中国が動いたということで、「自分にはそれほどの影響力がある。だったら米朝会談でもう少し自分たちの有利な状況を引き出したい」という思いを持ってしまったのではないでしょうか。実際、それまで容認していた米韓合同軍事演習にいきなり反発し、非核化問題に関しても米国を非難する談話を発表しています。

山里: これがアメリカを刺激した、ということですか。

高: そうですね。トランプ氏は確かに金正恩氏と会談したいのですが、絶対にしなければならないわけでもありません。一方、金正恩氏にとっては米国との関係改善は体制存続に関わる問題です。そこで、トランプが一度「お灸を据える」意味で、北朝鮮がそこまでゴネるのなら会談を中止していいよ、とつきつけたわけです。
これに焦ったのが北朝鮮で、直後に出した談話では会談中止を「意外で、非常に残念に考えざるを得ない」などと言い訳に終始しました。随所で米国に対して「会談してください」というメッセージを送ったわけです。
さらに5月26日には韓国の文在寅(ムン・ジェイン)大統領と電撃的に文在寅と2回目の会談を行って、米朝会談の実現に向けて話し合ったところ、トランプ氏は会談に前向きなメッセージを出しました。現時点では、北朝鮮のお株を奪うような交渉術で米国は北朝鮮に対して圧倒的に有利な立場に立ったと言えます。会談も、おそらく米国に圧倒的に有利な状況で進むのでしょう。(2018年5月28日現在)

山里: 予断を許さない状況ですが、本当に会談が実現したとしたら、これって、どれくらいすごいことなんでしょうか。

高: 米ソが対立していた冷戦構造が30年くらい前に終わり、中国も一応表向きは喧嘩しつつも、経済は切っても切れない関係ですよね。そうなると、本気で米国と構えているのは北朝鮮だけなんですよね。そういう国のトップの会談です。

山里: これは特異なことですよね。

高: ここで米国が北朝鮮と対立する状況を無くせば、朝鮮半島は戦争状態ではなくなる。ということはですよ。トランプ氏は、歴史に残るんですよ、間違いなく。一方、金正恩氏も歴史に残る。あの二人は、ふるまいを見ていても分かりやすいんですけども、功名心が強いんですよ。似たもの同士です。だから「このへんでいっちょやったるかー!」みたいな感じですよね。

武闘派トランプとは気が合う

山里: 前任のオバマさんとは随分違いますね。

高: あの人は、すごく控えめで、やっぱりポーズとか含めてインテリで。しかもスタイリッシュですよね。トランプはどちらかと言えば、要するに成金のオッチャンですよ(笑)。でもね、それもひとつの指導者の形なんです。「親分」タイプですよね。

山里: オバマさんって、基本的に北朝鮮に関してはどんなに挑発を受けてもあんまり動かずにいましたよね。

高: ええ、斜に構えていたわけですね。

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山里: それで、ずーっと北朝鮮は「いやちょっと待ってください。会議とかに来てよ。俺たちと話し合いの場を設けてくれよ」って、ずーっと色々アプローチし続けたけども、無視され続けた。でもトランプさんに対しては、ちょっと攻撃するそぶりをしたら、振り向くどころかグイグイきて、反対に「え? ちょっと、え? え?」ってなってる。驚いてるというか、あれは嬉しいのかな?

高: やっぱね、波長は合うんですよね、お互い「武闘派」ですから。

山里: 北野武監督の映画『アウトレイジ』の組長どうしのやり取りでも、それに近いものがありましたけど。

高: 僕はそう思いますよ。一番わかりやすい。会談すること自体が歴史的な出来事になるじゃないですか。トランプとしてはやっぱり派手好きですからね、もう話に乗ってしまったわけだし、同じことは金正恩にも言えます。

山里: 金正恩氏の功名心もくすぐられる?

高: やっぱり彼もね、当然自分が指導者だというプライドがありますよね。これまで世界中から、髪型や体型を揶揄されてもきましたが、米国と会談したら、北朝鮮史上、この70年では最も優れたというか、歴史に残る指導者になるじゃないですか。やらない手はない。
金正恩という人物は、ある意味普通の考え方ではない人物ですよ。でも、だからと言って政治家としてうまくできないとは限りません。時々、特異な人がブレイクスルーすることってあるじゃないですか。これはお笑いの世界なんか特にそうでしょう。政治の世界でもあります、はっきり言って。

山里: でも、ああいう2人じゃないですか。会談の途中でケンカしはじめるとか、ないですかね?

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高:逆にね、僕が期待しているのは、トランプが「正恩よ、これからお前を弟と呼んでいいか」「おう、アニキよ」ってな感じになること。なってもおかしくないですよ、あの2人なら(笑)。

山里: 「ヘイ! 正恩!」ってハグしたらすごいですよね(笑)。そんな正恩氏がブレイクスルーするかもしれないかも、という話ですが。

高: ジョンウンだけに、「ジョン!」とか言い出しかねませんよ(笑)。いい例があります。正恩は、ことし2度にわたって中国の習近平主席と会談しています。18年3月の初回の北京での会談では、彼はビビりまくっていたんですよ。もうおろおろして、メモとったりとかして。でも、4月の南北首脳会談のときは、多少おどおどしていた感はありますが、若干落ち着いていた。5月に大連で習近平主席に会ったときは、全然違う。かなり落ち着いていました。

山里: 「場慣れ」してきているってことですか?

単なる若造と思っていたら痛い目に合う

高: そう。注意しなきゃいけないのは金正恩の「34歳(諸説あり)」という若さなんですよね。政治家のトップっていうのは、だいたい50歳とか40歳ですよね。それに比べれば随分若いです。これは、「ポケットモンスター」みたいなんですけど、いわば「進化」なんですよ。若ければ若いほど場数を踏んだ時の吸収率はすごい。50歳、60歳の指導者が10回やってできないことが、たった3回や4回の経験でどんどん吸収しているっていうのが、見ていても分かりますよ。

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山里: 「若い」というなら、妻の李雪主(リ・ソルジュ)氏や妹の金与正(キム・ヨジョン)氏も、存在感がありました。

高: ですよね。特に女性ってのは本当にすごいなと思いました。あの子たちも30歳(諸説あり)ですよ。僕から見ると「あの子ら」です(笑)。って言ったら怒られるかな?
男性陣よりも肝っ玉でかいし、ああいう世界が注目している場に出たときに、仕草っていうか振る舞いっていうのがだんだん堂に入って、風格というのが出てきている。この若さっていうのが彼らにとっての強さですよね。

山里: 若いパワーが何かを起こすかもしれないですね。

高: 何も彼を誉めているんじゃないんですよ。そういうことを分かっていないと、単純にあいつが単なる若造で......って思っていたら、痛い目を見ますよという話です。
これまで「あいつに何ができるか」と、日本とか海外で言われていたんですけど、でも結局ここまで来たじゃないですか。これが半年の間で起きた。歴史的な、70年間動かなかったことを、半年で動かそうとしている。いつまでも舐めていたら、我々も間違うと思います。モンスターですよ、彼は。しかも進化するモンスターです。

山里: そんな進化するモンスターが、今「核」を持っているわけですね。

プロフィール
高 英起(コウ・ヨンギ)
北朝鮮情報専門サイト「デイリーNKジャパン」編集長。関西大学経済学部卒業。98年から99年まで中国吉林省延辺大学に留学し、北朝鮮難民「脱北者」の現状や、北朝鮮内部情報を発信するが、北朝鮮当局の逆鱗に触れ、2度の指名手配を受ける。雑誌、週刊誌への執筆、テレビやラジオのコメンテーターも務める。主な著作に「コチェビよ、脱北の河を渡れ―中朝国境滞在記―」(新潮社)「金正恩核を持つお坊ちゃまくん、その素顔」(宝島社)「北朝鮮ポップスの世界」(共著)(花伝社)など。近著に「脱北者が明かす北朝鮮」(宝島社)などがある。