関東学生アメリカンフットボール連盟は2018年5月29日、日本大学の選手が関西学院大学の選手に悪質タックルをして負傷させた問題で、連盟の規律委員会の調査にもとづいて認定した「事実」を発表した。
特に争点となった「監督の指示の有無」については、当該選手と内田正人・井上奨両氏との主張に「4点の不一致がある」として、順に説明。対比しながら、「どちらを信用すべきかは火を見るより明らか」として、二人の主張を退けた。
「不自然極まりない」
1点目は「『QBを潰せ』に込められた意図」への認識。当該選手は、「関学のQBをけがさせてしまえ」という意図だと受け取ったが、監督・コーチは規律委員会のヒアリングでも23日の記者会見でも、「そういう気持ちで思い切りプレーしてほしい、そんな気持ちを込めてQBをつぶせといったのであり、QBをけがさせてこいという意味でいったのではない」と供述した。これを、規律委員会の森本啓司委員長は以下のように説明し、当該選手の主張を事実と認定した。
「思い切りプレーする、激しくプレーするのはコンタクトスポーツにおいて当たり前であり、それを3年生のレギュラー格の選手、しかも全日本に選ばれる当該選手にわざわざ指示したのは不自然。また、『相手QBと友達か?』などと尋ねる必要はない。友達を相手にさすがにここまではできないだろうということをさせようとしたからこそ、井上コーチはそうたずねたと考えるのが自然である」
「このように考えると、QBを潰せという指示には、文字通りつぶしてこい、つまりけがをさせてこいという意図が込められていた。井上コーチはそのようなニュアンスで言い、当該選手はその通りに理解した。日大側が主張する『認識の乖離』などそこには存在しない。規律委員会ではこう断定する」
2点目は「『QBをつぶせ』は内田監督の指示だったのか」。当該選手は試合当日、内田氏に直々に「QBをつぶすので出してください」と言いに行き、その結果試合に出られたと供述し、他方で内田氏は規律委員会のヒアリングでも「私からの指示は一切ない」と強弁、井上氏も「監督からQBにけがさせてこいと指示は出なかった」と供述したという。
これも森本氏は、次のように説明して当該選手の主張を支持した。
「思うに、この点については内田監督と井上コーチの供述は、内田監督を守ろうとして事実を捻じ曲げているのが明らかであり、まったく信頼性に乏しい。当該選手が『はまっていた』(編注:内田監督の異常に厳しい指導の標的になっていた)ことは、本人の供述を裏付ける複数の関係者へのヒアリングから判明している。直接内田監督に試合から外すとプレッシャーをかけられていた当該選手が急きょ試合に出られるようになったというのに、内田監督と同選手が何も会話をしていないのは不自然極まりない」
「一連の会話と出来事について当該選手の供述は極めて具体的かつ迫真性があり、合理的な説明になっている。どちらを信用すべきかは、火を見るより明らかである。『QBをつぶせ』『やらなきゃ意味ないよ』は立派な指示。また試合中、観客席まで聞こえたという、『当該選手は監督のいうとおりにやったんや』というチームメイトの檄は、当該選手のプレーが内田監督からの指示であったこと、それをチーム全員が知っていたことの証左である」
「日常の経験則に照らして合理的である」
3点目は、「1プレー目からQBをつぶすのが試合出場の条件だったか」。これについては、当該選手が直前の練習でレギュラーの練習から外されていたことや、試合当日のスタートメンバー表に名前がなかったこと、にもかかわらず当該選手が内田監督に直々に「QBつぶすので出してください」と言いに行ったら試合に出られたこと、試合前に井上氏が「できませんでしたじゃすまされないからな」と念を押したこと、1プレー目から強引にQBに突っ込んでまさにつぶしに行ったこと――などのことから、
「1プレー目からつぶしに行けという指示は関学戦出場の条件とされていたと考えるのが、日常の経験則に照らして合理的である。規律委員会が入手した情報では、試合前日・前々日のハドルで、内田監督が『QBをつぶしてこい』と言っており、みんながこれを聞いていたという証言もある」
と認定した。
最後に4点目は、「内田監督が当該選手に『やらなきゃ意味ないよ』と言ったのか」。内田氏は「彼が近くに来て何かいったが正直わからなかった。3~5メートルに来て帰っていったが、その時の会話はなかった」と主張しているが、森本氏は「不自然極まりない供述」と断じ、
「試合メンバーから外れた選手が試合に出してほしいと監督に直訴するときに、監督が聞いておらず返事もないのにそのまま帰っていくことがあるだろうか。そのようなことは経験則に照らしてありえない。ここに如実に表れているように、本件に関する内田監督の発言は、自身の関与に関するものについては、おおよそすべてに信用性がないと規律委員会は判断する」
として、全面的に内田氏の主張を退けた。