勝利の近道は、「面白さ、楽しさ」伝えること 関学・小野Dのアメフト論が脚光浴びる

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   アメリカンフットボールの悪質タックル問題で被害を受けた関西学院大学アメフト部が開いた会見では、問題そのものへの対応はもとより、小野宏(ひろむ)ディレクターが語った指導者としての心構えにも注目が集まった。

   同時にインターネット上では、小野氏が過去、出身高校のアメフト部に宛てて送ったあるメッセージにも俄かにスポットライトが当たった。

  • 関西学院大学アメフト部の小野宏ディレクター
    関西学院大学アメフト部の小野宏ディレクター
  • 関西学院大学アメフト部の小野宏ディレクター

「『ロウソクの火』みたいなもの」

   日本大学からの再回答を受けて2018年5月26日に関学が開いた会見では、報道陣からこんな質問があった。「日大の回答書には『DL選手に闘志がなかった』という指摘がある。アメフトをやる以上、最低限の勇気や闘志は必要だと思うが、モチベーションを引き出すにはどのような指導方法が必要か」。鳥内秀晃監督は「声が小さいといったことはあったかもしれませんが、性格がありますから。そんなことまで強制して意味あるのかな。その個性を尊重しながら、一番いいプレーを目指してやればいい」と、一人一人に合った指導の必要性を指摘した。

   すると、「僕もコーチを20数年やっていましたので、ちょっとだけ付け加えると...」として、次のように続いたのが小野氏だった。

「闘志は勝つことへの意欲だと思いますし、それは外から言われて大きくなるものではないと思っています。自分たちの心の中から内発的に出てくるものが一番大事ですし、それが選手の成長を育てるものです。その一番根源にあるのは、『フットボールが面白い、楽しい』と思える気持ちです」

「我々がコーチとして一番大事なのは、選手の中に芽生える楽しいという気持ち、これは『ロウソクの火』みたいなもので、吹きすぎると消えてしまいますし、大事に、少しずつ大きくしないといけない。そっと火を大きくするような言葉も大事でしょう。内発的に出てくるものをどう育てるかが、コーチにとって一番難しい仕事だという風に思っています」

   この話は、会見の模様を見ていたインターネットユーザーから大きな反響があった。選手が強制されてではなく、自ら進んで取り組む心を大事にしたいという言葉に、教え子やフットボールへの純粋な思いを感じたようで、ツイッターには

「アメフトの事を聞かれた時のろうそくの火に例えて話してくれた時、感動した」
「鳥内監督と小野ディレクターの闘志の話、もう1回見返したい」
「いま、鳥内監督と小野ディレクターが、闘志についてめっちゃいい話してる!」
「生徒指導をろうそくの火に例える関学の小野Dさん『吹きすぎても火は消えてしまう』 ええこと言う」

といった投稿が相次いでいた。

「現役の後輩に伝えたかった」こと

   同時に、「関学小野ディレクターが自分の母校(高校)に送った文章。アメフト愛にあふれている」などとしてツイッターでURLがシェアされ、注目されたのが、母校・東京都立戸山高校アメフト部へ小野氏がおくった、「戸山アメリカンフットボール部の哲学・戦略・戦術」というメッセージだった。

   2000年頃、創部50年を記念した部誌のためにOBとして書いたもので、会見でも述べていた「フットボールが面白い、楽しいと思える気持ち」に通じるこんな記述がある。

「何よりもアメリカンフットボールの面白さ、楽しさ、その魅力の全体像を現役の後輩に伝えたかった。それが『勝つ』ことへの一番の近道だと信じていた。『好きこそものの上手なれ』である。『哲学』というにはあまりに陳腐なのだが、それこそが私にとっての戸山の本質であった。また、それを伝えられるのは、東京から関学まで行ってフットボールをした自分しかいないという身勝手な使命感があった」

「人が心の底から夢中になれるものを持つようになるということは感動的なことである。自分でも理解不能な『こころ』が、化学反応を起こすように、瞬間的に、時にはゆっくりと、何かを好きになっていく。そして、いつしかそれへの愛情を胸に宿すようになる」

   小野氏は続けて、「異性に恋い焦がれるというのならわかるが、痛くて辛くて汚くてなんの得にもならないアメリカンフットボールに夢中になることがあるとしたら、それは人として崇高なことですらある――というのは自己弁護に過ぎないのだが......」と謙遜していた。この後、アメフトの戦略論が約5000字にわたって続く。終盤には「戦略よりも前の段階として考えるべき『安全にフットボールをする』ということに触れておきたい」というくだりもある。

   現在ディレクターとして支える関学アメフト部のウェブサイトで書いているコラムにも、その信念が表れているものが見つかる。「第55回ライスボウル(2001年度) コーチコラム(攻撃)」には、こんな一節があった。

「『やらされている』ような状態では、成長はおぼつかない。しかし、人間はなかなか努力が長続きしないものである。ましてや、米国のようにスポーツ奨学金がもらえるわけでもなく、プロへの可能性もない日本の大学フットボールにおいて、選手の高いモチベーションが維持される基礎条件は大きくない。では、そうした受身の姿勢に陥らず、自分から夢中になって厳しい課題にも取り組むことができるようになるためには、どうしたらいいか。いろいろな答えがあると思うが、そのうちの一つは、やはりフットボール自体を『面白くて仕方がない』と感じられるようになることだ。好き、になることこそが近道だと思う」
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