「彼のために」の言葉に見る「虐待の構図」
内田氏と井上コーチもしきりに使っていた「彼のために」という言葉にも着目した。「彼のために次につなげようと考えていた」「彼のためにという思いだけでやっていた」「育てる、発奮させるため、愛情もって」――。こうした2人の言葉に、長谷川氏は「厳しいことを命じながら『彼のため』というのは、後ろめたさがある時の、専門用語でいう『合理化』(防衛機制のひとつ)が働いています」としたうえで、
「恐怖を用いた支配関係を築いており、まさに虐待の構図です。学生をコントロールする意図が見え、そこに信頼関係は生まれません」
と話す。さらに、
「DVですごく多いです。『ちゃんとできない君のためにやっているんだ』。やりすぎの心理を合理化しているのです。これをスポーツの指導の中で言われると、学生は本当に自分を思ってくれていると信じ込んでしまう。逆に期待に応えられない自分がいけないと責めてしまいます。虐待被害者の心理と同じです」
と危険性を指摘していた。