登山家の栗城史多(くりき・のぶかず)さんの訃報は、彼の活動を応援してきたファンだけではなく、インターネット上の「アンチ」達にも大きな衝撃を与えた。
エベレスト下山中に遭難死したと伝えられた2018年5月21日正午過ぎ。「5ちゃんねる」(2ちゃんねる)で8年以上も続くアンチスレの雰囲気は一変した。批判や揶揄の声で溢れていた生前のスレとは打って変わり、悲しみを吐露するユーザーが続出したのだ。
訃報直前の書き込みは...
09年から世界最高峰エベレストへの挑戦を重ねてきた栗城さん。12年の4度目の挑戦では、重度の凍傷で両手の指9本を切断することになったが、エベレストへの思いは変わらなかった。15年の5度目には8150メートルの高さまで到達した。
このように、あくなき挑戦を続ける姿は多くのファンや支援者を生んだ一方で、彼の活動を否定的に捉える人も少なくなかった。
栗城さんの言う「単独・無酸素登山」の解釈に疑問の声が出ていた点や、専門家から「無謀」との指摘も出ていた挑戦の中で犠牲が出ていたこと。さらには、メディアでの発言や彼自身のキャラクターなど、様々な観点から批判を浴びていたのだ。
実際、5ちゃんねるの登山キャンプ板では、2010年1月から栗城氏の「アンチ」が集うスレッドが継続的に立っている。8年以上も続いたアンチスレは、栗城さんが亡くなるまでにパート470まで伸びていた。これまでに46万9000件以上の書き込みがあったということだ。
18年5月21日のスレッドは、訃報の前後で雰囲気が激変している。この日の朝10時過ぎ、栗城さんが登頂を断念して下山することが伝えられると、スレの住民からは、
「下山wwww」
「下山きたあああああああああああああああああ!!!! この時を待っていた」
「予想通りすぎて草 今年も敗退おめでとう」
などと面白がるような声が相次いでいた。
アンチスレ住民も「泣いた」
だが、その約2時間後。あるユーザーが、栗城さんの死を最も早く伝えた現地紙「ヒマラヤタイムズ」の記事を紹介すると、スレの住民たちの反応は一変した。「えっ‥」「マジなの?」「どうすんだよこれ...」――。
このように、突然の訃報にショックを受けた様子の住民たち。彼の活動を批判・揶揄するアンチのユーザーが集うスレにもかかわらず、栗城さんへの追悼の言葉が相次いで寄せられたのだ。
「叩けない淋しさを知った。ありがとう栗城」
「こんなに早く、突然に終わりが来るとは思わなかった」
「何も死ぬなよなぁ 泣いた人も何人かいたし俺もさっき泣いた」
「無事に下山して叩かれてこその栗城だろうが 死んだら元も子もないだろ...」
結果として、この日の栗城さんのアンチスレには、悲しみのコメントや過去のエピソードを振り返る書き込みなど、あわせて3000件以上ものレスが寄せられた。また、栗城さんの訃報があった直後に立ったスレのタイトルには、
「いままでありがとう」
の言葉も添えられていた。