南米を訪問中の河野太郎外相が、自らへの報道ぶりにご立腹だ。河野氏は2018年5月20日(現地時間、日本時間同)、ブラジル・サンパウロに日本の情報発信を目的につくられた「ジャパン・ハウス」で講演した。
その講演内容の多くが日本と中南米の関係や、市場経済の重要性に関するものだったが、共同通信は終盤の北朝鮮に関する話題を見出しにとって配信。「なぜこういう見出し、記事になるのかわからん」などと、ツイッターで次々にかみついている。安倍政権が対話路線を鮮明にする中、「圧力」が強調されることを嫌った可能性もありそうだ。
「北朝鮮問題以外に興味がないのだろうか」
河野氏は5月21日(日本時間)に、サンパウロでの講演について、ツイッターで
「日曜日の午前中にもかかわらず、満員の聴衆で日本への関心の高さをうかがい知ることができました」
と満足そうに振り返ったが、その報道ぶりには不満を隠さなかった。共同通信が
「『北朝鮮へ圧力維持を』 河野外相、中南米向け演説」
と題して配信した記事に
「なぜこういう見出し、記事になるのかわからん。北朝鮮問題以外に興味がないのだろうか」
とかみつき、これに先立ってアルゼンチン紙のインタビューに応じた内容について
「河野太郎外相『中短距離ミサイルも廃棄対象』 北朝鮮に米国と歩調合わせ強く要求へ」
の見出しで報じた記事にも反発。この記事は共同通信が配信した記事が産経新聞のウェブサイトに掲載されていたため、
「ほら産経も共同の記事を使うから、北朝鮮に関するスピーチみたいな記事になる。こうなったら同行してくれた読売とNHKの記者にきちんと書いてもらうしかない」
とぶちまけた。
朝日記事には「異議」なし?
続けて河野氏は、
「河野外相、ブラジル訪問 日系人と交流『緊密な関係を』」
の見出しがついた朝日新聞の記事を引用。河野氏のツイッターに引用されていたのは見出しだけなので、特に記事内容に「異議」はないようだ。その後、外務省のウェブサイトに掲載されたスピーチ全文へのリンクつきで
「このスピーチでどうやって共同通信の見出し、記事になるのか?」
ともツイート。共同記事への怒りは収まらないようだ。
外務省ウェブサイトによると、河野氏は講演で、2018年が日本からブラジルへの移民が始まってから110周年にあたることや、最初のジャパン・ハウスをサンパウロに作った意義に触れながら、ラテンアメリカ、カリブ諸国と日本は
「民主主義、法の支配、人権、市場経済といった基本的価値を共有している」
と表現。ポピュリストや過激主義者が政治の場面で跳梁跋扈しつつあるとして、市場経済が民主主義に果たす役割の重要性に言及。環太平洋経済連携協定(TPP)については、
「トランプ政権がUターンを決めたのはショックだったが、他の11か国は自由貿易の福音をアジア太平洋地域に広めることを決意した」
として、「アジア太平洋」に限らず中南米諸国にもTPP11への参加を呼びかけた。
安倍首相との「温度差」嫌った?
北朝鮮の話題は全体の4分の3程度が終わったところで登場。北朝鮮が提案した南北閣僚級協議を一方的に中止したことについて、「すでに北朝鮮はゲームを始めている」と指摘し、6月12日の米朝首脳会談については
「北朝鮮に我々の目標に向けた具体的な行動を取らせるには、国連安保理決議に基づいた経済制裁を通じて圧力を維持しなければならず、制裁を緩和するタイミングを誤ってはならない」
と述べた。この部分を見ると、共同通信の「北朝鮮へ圧力維持を」の見出しは、発言内容を反映していると言えそうだ。なお、この演説では、米朝首脳会談を歓迎する旨の発言はなかった。
安倍晋三首相は5月11日、会談の日程と場所が決まったことを「歓迎したい」として、
「この歴史的な米朝会談によって、核問題、そしてミサイル問題、何よりも重要な拉致問題が前進していく。そういう機会となることを強く期待したいと思います」
と述べている。安倍氏の発言と今回の河野氏の発言との温度差は明らかで、この点が際立つのを嫌った可能性もありそうだ。