求められる「再建のスピード感」
それでも、東芝が計画通りの売却をベストシナリオと位置付け続けた。それは、自身の財務基盤と半導体事業の「宿命」からの判断だ。
半導体は技術革新のスピードが速いうえに、需要の浮き沈みが激しく、生き残りのためには、巨額投資で業界首位を走る韓国サムスン電子や、国家の支援を受ける中国勢との競争に勝つ抜くため、毎年千億円単位の巨額の設備投資を続けることが不可欠というのが宿命だ。ようやく債務超過を脱したとはいえ、財務基盤がなお弱い東芝にとって、この投資負担は重い。
とはいえ、メモリー頼みからの脱却を進めるのは簡単ではない。これ以外では、東芝は、(1)エネルギー、(2)インフラシステム、(3)人工知能(AI)、(4)メモリー以外の半導体――という4本柱を主力と位置付ける。しかし、現状で力不足は明白だ。2018年3月期決算(5月15日発表)のセグメント別の業績をみると、エネルギー部門は火力が世界的な逆風で不振であることなどから148億円の営業赤字。中核事業に据えるインフラ部門でも営業利益は前期より100億円少ない480億円にとどまり、メモリーを除く半導体事業が営業益473億円と、こちらも前期比100億円余り減と、軒並み苦戦。AIやすべてのものをインターネットでつなぐIoTなどはこれからの課題で、まだほとんど収益に貢献していない。
東芝メモリ売却益は約1兆円。また、売却後の東芝メモリに約40%分を再出資することになっているので、持ち分法適用会社として、現状の利益水準が続けば年間約670億円の利益が得られる計算。これらを原資に新たな収益源を育てていくことになる。車谷暢昭・会長兼最高経営責任者(CEO)は5月15日の決算説明会で「売却で入る大きな資本を投資効率のいい分野に振り向け、成長していく」と語った。2018年中をめどに投資先となる重点分野の絞り込みを進める方針だ。ただ、株主には2017年末の増資に応じて大株主になった海外ファンド勢もおり、再建のスピード感が求められる。