アメリカンフットボールの試合で日本大学の選手が関西学院大学の選手に悪質タックルを仕掛けた問題で、関学側が2018年5月17日に記者会見を開き、「信頼関係は完全に崩壊している」と日大側の対応に不信感を表した。
インターネット上で注目されたのは、会見でこうした言葉を発した小野宏(ひろむ)ディレクターの毅然とした態度だった。理路整然と関学側の意向を伝えつつ、悪質なプレーへの怒りを時折にじませる場面もあり、「小野ディレクター、有能過ぎでは」といった声があがった。
「真実を自分の口から話すのが、どこかで彼の人生のためにも必要」
6日の両大学の定期戦で、日大のディフェンスの選手は無防備な関学のクオーターバック(QB)の選手に背後からタックルを仕掛けるなど、ラフプレーを連発。関学の選手は全治3週間の大ケガを負った。関学アメフト部は日大アメフト部へ抗議文を送り、15日に回答が届いたとして、今回会見。約1時間30分にわたり、説明と質問への回答を行った。
会見での説明によると、日大側は「意図的な乱暴行為を行うこと等を選手へ教えることは全くございません」と、悪質タックルが監督ら指導者による指示であることを否定。「弊部の指導方針は、ルールに基づいた『厳しさ』を求めるものでありますが、今回、指導者による指導と選手の受け取り方に乖離が起きていたことが問題の本質と認識」しているとの回答だった。一方で、ラフプレーにいたった詳細な経緯などについては、確認作業に時間を要するとして、24日を目処に再度回答すると関学側に伝えたという。
こうした回答につき、会見に参加した2人のうち向かって左の席についた小野氏は、
「本件回答書によって弊部の抱える疑問、疑念を解消できておらず、現時点では私どもが求めている誠意ある回答とは判断しかねると考えます。トータルで真相究明されるのが、我々が望んでいることです」
とし、24日までに届くとみられる再回答をもとに今後の対応を検討するとした。「回答次第では定期戦を行わない」とも表明した。
小野氏は日大側の回答に不満を示しながら、あくまで冷静に報道陣の質問に答えた。悪質タックルをした日大の選手について問われると、
「どういう事情があったにせよ、生命に関わる悪質なプレーです。重篤な事故が起きる可能性もあり、その行為自体は許されるものではありません。ただ、当該選手がなぜああいうプレーしたか、真相究明が必ずなされるべきであり、我々もきちんと納得できるまで解決しません」
と糾弾しつつ、
「当該選手本人が、このことの真実を自分の口から話すのが、どこかで彼の人生のためにも必要だと私は思います」
と選手と慮った。
「最も抑制的な表現で『憤り』」
日大側自身の「内部調査」で真相が表に出ると思うか、という質問には、
「第一に当該アメフト部の自浄能力、自ら真相を究明し、社会に公表するのが一番大事です。それは我々に対してだけでなく、日大アメフト部の将来、そして日本のアメフト界全体にとっても、どうしても必要なことだと私は考えます。一方で、関東学生連盟の調査もありますので、そこは客観性を持って調査していただくことが必要と考えます。その両方において真相究明に近づくことが望ましいと考えています」
と、日本アメフトの未来まで見据えた回答をした。
また、感情を極力抑えながらも、強い怒りをにじませる場面が何度かあった。「今回の問題で両大学アメフト部の関係が変わったか」を問われると、「我々は各世代で、他の大学より深いつながり、懇親があります。長く続くOBのつながりは変わりません。ライバルとして戦い、蓄積したものがあります」とした上で、
「ただ、今の両チームの関係は決定的に信頼関係が損なわれている。完全に崩壊していると思っていい状態です」
と述べている。
問題のプレーがあった試合で「タックルした日大の選手が下がった時、(日大の内田正人)監督から労うような動作の映像があったがどう思うか」との問いには、慎重に言葉を選びながら
「最初の段階から非常に不可解と思っています。なぜそこで注意されないのか。選手が寄ってきて、まさしく労うような行為がされていることに、全く理解できないというのが一番抑えた表現だと思います」
と不可解さを示した。
負傷した選手とその家族とも話をしたとして、その心情を代弁。ここでも、
「ご家族は当然ものすごく怒り、今も激しく憤っておられます。そもそものプレーもそうだし、監督の指示があったのではないかという疑念もそうです。何より、自分達に対して謝罪を申し込まれていないことへの憤りです。これも最も抑制的な表現で『憤り』としています。正直、収まってくる感じではないと思います」
と煮えたぎる思いを努めて冷静に述べている。
「アメフトには知性が必要ってのは本当」
関学アメフト部の公式サイトによると、小野氏自身も関学アメフト部出身。今回ラフプレーを受けた選手と同じQBだった。1984年に理学部を卒業すると、朝日新聞社で記者をつとめた。93年から関学に勤務し、コーチに就任。U-19日本代表のチームスタッフ経験もある。2013年に現在のディレクターに就任した。
J-CASTニュースの取材に応じた関学アメフト部広報担当者によると、ディレクターは競技指導以外の部のマネジメント全般を担っている。大学アメフト部でこの役職を設置しているところは「少ないと思う」という。
小野氏の理路整然とした話しぶりと、淀みなく毅然とした態度で臨む姿勢は、ネット上でも注目された。ツイッターでは、
「関学の小野ディレクターの質問の咀嚼能力と理路整然とした返答の速さは素晴らしい。有能」
「小野ディレクター、有能過ぎでは?? 説明が簡潔、わかりやすい」
「アメフトには知性が必要ってのは本当なんやなと感じさせられる会見」
「紳士であり、かつ毅然と言葉を発しておられることに心から敬意を表したく思います」
と称賛の声が続々。
また、日大側はいまだ記者会見を開くなどしておらず、対応が後手に回っていることから、「小野さんのメディア対応がとても素晴らしく、際立っていました。それが故に、尚更日大の対応の酷さも際立っています」と比較する声も出ていた。