1か月後に迫った米朝首脳会談を控え、北朝鮮側が揺さぶりを強めている。
2018年5月16日に予定されていた南北の閣僚級会談を、米韓合同軍事演習を理由に直前に中止を通告してきた。次いで、「一方的な核放棄だけを強要するなら朝米首脳会談を再検討するしかない」とする談話を発表した。
カダフィ大佐は核放棄の8年後に殺害
談話は、5月16日午前、米国との交渉に長年携わってきた金桂寛(キム・ケグァン)第1外務次官が国営朝鮮中央通信を通じて出した。談話では、米朝首脳会談自体については
「朝鮮半島の情勢緩和を推進して素晴らしい未来を構築するための大きな一歩になると期待している」
としながらも、米国で「会話相手を深く刺激する妄言」が相次いでいることに「極めて妥当でない仕打ちとして失望せざるを得ない」とした。その「妄言」の例として挙げたのが、ホワイトハウスや国務省が繰り返している「完全、検証可能、不可逆的な非核化(CVID)」や、「リビア方式」だ。
ボルトン大統領補佐官(国家安全保障担当)は4月29日に米メディアで、北朝鮮の非核化に向けた交渉を「リビア方式」で臨む方針を明らかにしている。「リビア方式」とは、リビアのカダフィ大佐が03年、米国が経済制裁を解除するのと引き換えに、核を含む大量破壊兵器の廃棄を宣言し、査察団を受け入れた一連の経緯を指す。国際社会からの孤立を恐れためだとみられるが、その後11年にカダフィ政権は崩壊し、カダフィ氏は米国などが支援する反体制派に殺害されている。
「リビアやイラクの運命を、尊厳高い私たちの国に強要しようとしている」
金氏の声明では、こういったことを念頭に、米国で相次ぐ発言を
「対話を通じて問題を解決しようとするのではなく、本質において大国に国を丸ごと差し出して崩壊したリビアやイラクの運命を、尊厳高い私たちの国に強要しようとしている」
と非難。経済的補償と引き換えに核放棄に応じる考えも否定した。
「米国は、私たちが核を放棄すれば、経済的報酬と利益を与えると騒いでいるが、私たちはこれまで一度も米国に期待して経済建設をしたことはない。今後もこのような取引を絶対にしないだろう」
金氏の談話は、
「一方的な核放棄だけを強要しようとするならば、私たちは、このような会話に多くは興味を持たないだろう。今後の朝米首脳会談に応じるのかを再検討するしかないだろう」
という1文で結ばれている。「一方的な」という表現からは、米国側にも何らかの行動を求めているとみられる。談話では、「朝鮮半島の非核化」の前提は「米国の対(北)朝鮮敵視政策と核による脅威・恐喝を終えること」だと主張しており、軍事演習の中止を求めているともとれる。
ただ、イラクやリビアのくだりからは、核放棄と引き換えに体制の存続を勝ち取る狙いも透けて見える。