今週、国会がやっと動き出した。サラリーマンもうらやむ一部野党議員は、国会審議拒否によって「18連休」だった。その国会では、「働き方改革」の関連法案が話題になっているが、法案を要しない分野では、いちはやく「働き方改革実行計画」が決められており、その中で、副業・兼業の普及促進が進められている。
これまで企業の8割以上の企業で副業が禁止されているが、副業についての法的な縛りがあるわけでなく、社会慣行であった。その慣行の根拠とされていたのが、厚生労働省が策定した「モデル就業規則」である。これは、あくまでモデルであるので、企業に対する拘束力はなかったが、企業の就業慣行の形成に一役買ってきた。
新しい「モデル就業規則」の中身
常時10人以上の従業員を使用する使用者は、労働基準法により、就業規則を作成し、所轄の労働基準監督の署長に届け出なければならないとされている。その際、参考とされるのが「モデル就業規則」である。その結果、多くの企業で実際に副業禁止となっている。
これまでの「モデル就業規則」では、遵守事項として「許可なく他の会社等の業務に従事しないこと」が定められており、これに違反した場合には、懲戒事由にあたるとされてきた。
新しい「モデル就業規則」では、この遵守事項が削除され、副業・兼業が新たに加えられた。そこでは、「労働者は、勤務時間外において、他の会社等の業務に従事することができる」とされている。
副業・兼業は会社への届け出により行えるが、企業秘密が漏洩する場合などには会社は禁止又は制限することができる。
新たな「モデル就業規則」は、これまでの副業・兼業の原則禁止から原則自由に方向転換だ。その上で、労働者の副業・兼業について各企業の制限が許される場合について、裁判例などを参考にしながら限定的に定めている。
日本型雇用環境を労働者の方から捨て去る契機に?
こうした政府の方針転換の背景には、働き方改革というより、アベノミクス金融緩和によって実現した人手不足がある。これまでのように、副業・兼業禁止で、企業に縛り付けておく「働かせ方」では、人手不足は解消しない。
人手不足は労働者にとって朗報であるが、企業にとっては賃金上昇要因で好ましくない。そのとき、企業に副業・兼業禁止があると、労働者にとって、労働供給したくてもできない状態になる。そこで、一定の副業・兼職の余地があると、別の企業にとっては無理のない形で労働力の確保になり、より望ましい経済環境になる。
これは、労働者にとっても朗報である。必ずしも残業代が十分でない場合、副業・兼業が認められれば、自社に縛られずに働けるからだ。こうした自発的な時間労働であれば、「ブラック労働環境」ではなくなる。しかも、所得が増えるので、経済効果も期待できる。
何より、労働者が他の労働環境を知ることになり、企業にとっても副業・兼業禁止で縛っていたときよりも、その企業のメリットを強調せざるを得なくなる。
これはいい意味で、従来の「日本型企業」には大きな刺激を与えるだろう。兼業・副業をステップとして他の企業を知った場合、労働者は企業に縛られなくなる人も出てくるだろう。これは、日本型雇用環境を労働者の方から捨て去る契機になるかもしれない。いずれにしても、企業もうかうかできないだろう。
++ 高橋洋一プロフィール
高橋洋一(たかはし よういち) 元内閣参事官、現「政策工房」会長
1955年生まれ。80年に大蔵省に入省、2006年からは内閣参事官も務めた。07年、いわ
ゆる「埋蔵金」を指摘し注目された。08年に退官。10年から嘉悦大学教授。著書に
「さらば財務省!」(講談社)、「『年金問題』は嘘ばかり」(PHP新書)、「大手新聞・テレビが報道できない『官僚』の真実」(SB新書)など。